『graduation〜ファイティングガール〜』-5
優しい・・・ホントに優しい声で都築先輩は言ってくれた。
それまで緊張していた糸が解れるように涙がボロボロ出た。
そんな弱い自分をどうしても知られたくなくて、無理に普通の声を出した。
「あたりまえです。」
それだけ言うのが精一杯だったけど。
先輩はまた小さく笑うと、ちょっとだけ真剣な声で言った。
「明日さぁ・・・亜紀の家に泊まりたいんだけど。ダメかな?」
・・・・・・断れるわけがなかった。
※
次の日、学校から帰ってくると大掃除をした。都築先輩は野暮用があるから夜に来ると言っていた。
大好きな都築先輩。
その先輩が私の家に泊まる。
一人暮らしを始めて2年。男の人を泊めるのは初めてだった。
都築先輩が好物だと言っていたビーフシチューも作った。布団も埃を払ったし、お風呂場もトイレも綺麗にした。
ピンポン
ノーテンキな音がして都築先輩が登場。
「都築先輩...」
扉を開け、顔を見るよりも前に抱きしめられた。何故か体が凄く冷えていた。
「暖めて。」
そのまま都築先輩はご飯も食べずに私を抱いた。
...全てが怒涛のように過ぎた。
けど、大好きな人に抱かれるという幸福感。
幸せで幸せで、こんな気持ちになれるなんてあり得ない。
これまでだって最高に好きだと思っていたけれど、人はもっと人を好きになれるのだということを証明するかのように、「好き」って気持ちで自分の中が充たされていくのを感じた。
「嘘みたいに幸せ。」
私が呟きながら都築先輩の腕に甘えると、何か冷たいものにあたった。
水......涙?
「都築先輩?」
「......ごめん。幸せすぎて。」
その言葉に私の目からも涙がこぼれた。
「こんなに俺一人幸せになっていいのかなって思って...」
「先輩。一人じゃないです。私もすごくすごく幸せです。」
私は心からそう思い、都築先輩の胸に抱きついた。
先輩は黙って私を朝まで抱きしめてくれた。