乗り込んだ優子-2
しかし、その安堵も束の間のことだった。その安堵を破る声が唐突に車内に響いた。
「ちょっと、やめて下さい!」
キャリアウーマン風の女が、後ろに立つサラリーマン風の男に振り向いて甲高い声で叫んでいた。
(やだ、痴漢だ…)
優子は顔をしかめると同時に、その女の勇気に同じ女性として尊敬の眼差しを向けた。
「何だって?オレが何をしたと言うんだ?」
サラリーマン風の男が女に怒鳴り返した。
「今、あたしのお尻を触ってたでしょ」
「オレがか?」
「そうです。位置からしてあなたしか居ないでしょ」
「なんだとう!オレがこんな風に触ったと言うのか?」
男はそう言うと、大胆にも女の短いスカートに手を入れると、下着の上から尻を強く揉みだした。
「い、いや!やめて」
「何?尻だけじゃ嫌なのか?だったらこれでどうだ?」
男は空いた片方の手で女の胸も触りだした。
「あああ、い、いや…」
「本当に嫌なのか?ここはそう言って無いみたいだぞ」
尻を触っていた男の手が、女の股間の前の方に移動させるのが見えた。スカートに隠れた男の指の動きが、下着の上から肉スジをなぞるのが優子にも容易に想像ができた。
「あああ…」
「何だこいつ、『いや』と言いながらビチョビチョじゃないか。お前、本当は触って欲しくてオレに難癖をつけたんだろ」
「ち、違う…」
女は苦悶の表情を浮かべながら辛うじて否定した。
「じゃあ、他の皆さんに判断して貰おうじゃないか。皆さん、こいつが淫乱かどうか見て下さい」
男は女のスカートの裾を持つと、一気にまくり上げて女の下着を晒した。すると、周りの男たちは女の股間を凝視しだした。
「うわ、本当だ。ビチョビチョじゃないか。このねえさん、感じてるみたいですよ」
女の股間の前にしゃがみ込んだ中年の男が、皆に聞こえるように報告した。
「どうなってるか脱がせて見せろよ」
「人を痴漢呼ばわりして、本当は自分が痴女じゃないか」
その周りの言葉に力付けられた男はニヤリと笑った。
「ようし、見せてやるか」
「いやああああああ」
優子はその声で、女が下着を脱がされたのがわかった。
「ひ、酷い…」
優子は身震いをしながら、一番近くに居る自分と同年代の女に目を向けると、その女は優子以上に震えているのがわかった。
優子はその女の怖がりようを見て、(なんとかしなきゃ)と思い、勇気を振り絞った。
「お願い止めさせて」
優子は隣に立つ青年実業家風で顔立ちの整った男の腕を掴むと、目の前で起こった卑劣な行為をやめさせるように懇願した。その男を選んだのは、自分の周囲の中でその男が一番誠実そうに見えたからだ。
しかし、その瞬間、キャリアウーマン風の女とは反対に居た主婦と思しき女の周辺にも、嬉しそうな男の声が聞こえてきた。
「おい、こっちのねえさんもビチョビチョだぞ!見てみろよ」
「いや、いや」
優子が声のした方を見ると、その驚きの光景に男の腕を持つ手に力が入った。