センターの顔-1
峰野に対する余裕ある態度は他の男性客にも派生して行った。
そういう一個人に対する心のありようが葦野の中で汎化して行ったものと思える。
葦野は色々な男性有名人と出会っても気後れすることはなかった。
彼女が希望しさえすれば、いつでも核(コア)のレプリカを作ってもらえるという気持ちが自然と余裕になるのだ。
また葦野は髪形や化粧などにも気を遣うようになった。
仕事上派手にはしないが、清潔な印象を相手に持ってもらうためにと、自分を演出するようになった。
決して媚びる訳ではないが、どうやったら相手が自分に関心を向けてくるのか分かるようになって来た。
ある日、恋人にしたい男性有名人第1位という松本翔(まつもとかける)が検査に来た。
彼はもともとは歌手だったが現在は俳優としての活躍が目立っている。
「君が有名な葦野花果さんだね」
開口一番、松本にそう言われたので葦野は驚いた。
「私が有名? どうしてですか?」
「峰野鐘が携帯番号を交換しようと申し込んだのを君に断られたという話は有名だよ」
「そんな事実はなかったと思います。
仮にそんなことがもしあったとしても、それは規則ですから仕方のないことなのですが」
一流スターを相手に咄嗟の機転で応答できたことを葦野は自分でも驚いていた。
この会話は後に松本から何かの番組で伝えられた。
もちろん葦野の氏名は伏せられていたが、センターを利用したことのある有名人は誰のことを言ってるのかわかったに違いない。
葦野が峰野鐘のプライバシーを守ったということが彼女のみならず、センターへの信頼度をますます高めるエピソードとして伝わっていったのだ。
本来新人にさせていた案内係の仕事だが、利用者の受けが良いというのもあって、葦野は期間がすぎても案内係に留まった。
つまり、いつの間にか葦野は『名物案内係り』として青影検査センターの顔になっていたのである。