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青影検査センター
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取引-1

検査が終わって昼休みになったとき葦野花華は向ヶ丘技師の検査室に向かった。

向ヶ丘技師はオートロックの小部屋に葦野を入れた。

机の横の機械から拳大の白い塊を取り出して見せた。

それは女性の秘所の形を再現した立体模型だった。

「青山桜のものだよ。私はこの仕事のストレスから自分を守るためにときどきこういうことをする。

秘密を守るために、自分でも秘密を作ることにしているんだ。

これをやっているから、私はこのセンターで一番口が固い人間だと思っている。

君も新人ながら口が固い人だ。このことを他には漏らさないと思う。

けれども一応保険をかけておくことにする。これを君に進呈しよう」

そう言って取り出したのは男性のあの部分をかたどった白い立体だった。

「3Dコピーで作ったシリコンの張り形だ。峰野鐘の映像からとった。

君が峰野鐘に心奪われている様子が伝わったから、作ってみたんだ」

「嘘でしょう? だってこれは大きくなっています。

検査のときはこうなっていない筈じゃあ……」

「女性のを作るときもそうなんだが、細胞のサイズを調べそこに血が送られて膨らんだときの大きさを計算すると、再現できるんだよ。

受け取ってくれるね? そして絶対人には見られないように保管してくれ」

そういうと、封筒に入れて葦野に手渡すと、小部屋の外に送り出した。

受け取るのを断ることもできたが、峰野鐘のものだといわれて一瞬心が動いた。

その隙に押し付けられドアから締め出されてしまった。

まさかこう言う物を、その辺に放置してくる訳にはいかない。

家に持ち帰ってからよく見ると、あることに気づいた。

「少しかぶってる……」

指でめくると先が露出する。非常によくできている。

だが、これに手を出すと何か引き返せないような気がして、部屋の中に隠した。

そうこうしながら日にちが経って行くうちに、だんだんその存在が気になって行った。

葦野はだんだん限界に近づいて来た。

ああ、駄目だ。峰野鐘の体が目にちらついてしまう。

それを持って向ヶ丘技師に会いに行ったのはそれから1週間経ってからだった。

「やはりこれはお返しします。持っていると誘惑を感じてしまうのです」

葦野は返された峰野のレプリカをじっと観察してから言った。

「本当にまだ使ってないのですね。ではこれはどうです?」

葦野は思わず声を上げそうになった。

何故なら向ヶ丘は本物そっくりの色合いをしたレプリカを見せたからだ。

しかもそれは通常の状態のものだった。

「少し触ってみてください」

手渡されて恐る恐る触ってみると、それは見る見る大きくなっていった。

「触ると空気が送られて大きくなるのです。モーターが内臓してありますから。

色合いも若干赤くなるように工夫してあります。

本人の色に出来るだけ近づけています。殆ど見分けがつかないぐらいに」

葦野はそれを手から離すことができなかった。

峰野君のと同じなんだ。触れば大きくなる。本物と同じだ。

でもどうしてこんな物を苦労して作って私にくれるのか?

「何故こういうものを作るかと言えば、葦野さんに理解してもらいたいからです。

それを持っていれば峰野鐘を自分1人のものにできた気になりませんか?

たったそんな小さな物1つで、峰野鐘を独占して好きにできるのと同じ満足が得られるのです。

そして叶わぬ恋に苦しむこともない。

何回でも彼を楽しみ、飽きてしまえば良いのです。

そうすれば葦野さんは峰野鐘を卒業できる。

もし、別の人が好きになったら、その人のも作ってあげます。

その秘密を守ってさえいれば、誰の迷惑にもなりません。

仕事もきちんとこなして、守秘義務を見事に果たすことができます。

わかりますか? 人間は弱い生き物です。

私のように妻子がいて幸福な家庭を持っていても、きれいな女優さんが来れば魔がさします。

そんなとき、実際に欲望を満足させようとすれば家庭も仕事も失います。

だから最低限の魔がさすことでおさめるのです。

私は女性のこの部分を記録して形や大きさを分類することで、欲望を転換しています。

この手のレプリカを作って行くと、手品の種を見たような気になり、実際の女性と不倫しようなどと考えなくなるのです。

だから葦野さんにも勧めます。それを是非使ってみてください。

男性の本物を切って持ち歩いた女性のことを聞いたことがありますか?

異性を求める気持ちの究極の形はそこに落ち着くのです。

それを使ってみて、峰野鐘への恋心は何だったのか見極めてみてください」

向ヶ丘技師の言っていることは異常な内容だったが、何故か葦野は説得されたい気持ちになっていた。

それは今自分が手にしているレプリカのせいなのだ。

自分は向ヶ丘技師のしていることを密告する積りはない。

だとしたらそのご褒美を向ヶ丘技師から貰っても罰が当たらないのではないか。

葦野は決意した。これは受け取ろう。

でもこれは取引ではなく、向ヶ丘の考えに共感したという形にしたかった。

なにか自分が相手の弱みを握ってゆすり取るような形にはしたくなかった。

「わかりました。仕事も家庭も大事にしたまま、魔がさした自分をなだめるためのアイテムなのですね。

向ヶ丘さんの理論を実践してみます。そして卒業するように努力してみます」
 


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