師弟の病名、教えます。-1
「かわいいっ!!!」
ラヴィが目を輝かせ、白い毛並みの子犬を抱く。
「へ?」
ルーディは自分の目を疑った。
子犬は濡れた黒い鼻先を突き出して、ラヴィの頬をペロペロなめる。
「あはっ、くすぐったい」
信じられないことに、ラヴィは悲鳴どころか嫌がる素振りすら見せない。
愛しげに抱き締め、さらには白く短い毛並みにほお擦りまでした。
――ちょっ……こら待てぇぇぇ!!!!!
「ラヴィっ!?」
悲鳴のようなルーディの声に、ラヴィはキョトンとふりかえる。
「ルーディも抱っこしたいの?」
「そうじゃなくて……!そいつ、ラヴィの苦手な犬だぞ!!???」
「キャン」
子犬はラヴィの胸元で、同意を示すようかわいく鳴いた。
「うーん、そうだけど……」
ほんの少し迷うように、ラヴィは改めて子犬を見る。
小さな小さな身体に、濡れた黒い大きな目。いかにも頼りない細い手足。
愛玩用に品種改良された、チワワという新種の犬だ。
「こんなに可愛いなら平気」
きっぱり断言し子犬へ笑いかけるつがいの後ろで、人狼青年はがっくりと地面に両手をつく。
「ラ、ラヴィの……浮気者……」
ぼそぼそっと口にした恨み言は蚊の鳴くような声で、ラヴィには届かない。
普段は陽気な琥珀色をしたルーディの目が、ギラリと凶暴な金色を帯びる。
(ラヴィは俺の……ラヴィが平気な犬は、俺だけなんだからなぁぁぁ!!!)
正確にいえばルーディは狼で、しかも人狼だ。
しかし、そんな理屈はこの際、何の慰めにもならなかった。目端には悔し涙まで浮かんでいる。
「何やってんだい、まったく」
呆れ顔で呟くアイリーンをはじめ、バーグレイ商会の面々が、その姿を生暖かく見守っていた。