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月光間奏曲 (満月綺想曲・番外集)
【ファンタジー 官能小説】

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師弟の病名、教えます。-2

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 イスパニラ→シシリーナ→フロッケンベルク。

 これは暖かい地の順番であり、バーグレイ商会の通常巡回ルートでもあった。フロッケンベルクではやっと雪解けの季節、イスパニラでは早くも暑い季節を迎える。
 諜報員のルーディにとって、バーグレイ商会は仕事上で重要な相手だ。しかしアイリーンを初め、親しい隊商の皆と会えるのはやはり嬉しい。
 そしてラヴィも、再会を心待ちにしている相手がいた。
 フロッケンベルクで結婚し、隊商を抜けたサーフィも、バーグレイ商会と合流して来るというのだ。


 中央市場の一角は、いつでも各地から訪れる隊商の馬車で賑わっている。
 今回はバーグレイ商会も、僻地でなくちゃんと市場に隊列を置いていた。

「ルーディ、早く早く!」

 今日ばかりはラヴィの方が興奮し、ルーディの手を引っ張って幌馬車に駆けよる。ライラック色のスカートがひらりと揺れ、黒髪が風になびく。
 頬にはくっきりと獣の爪痕が刻まれているが、生き生きと輝くアメジストの瞳と、満面の笑顔を浮べた可愛い少女に、周囲の買い物客が何人か振り返った。

「お久しゅうございます、ラヴィ!」

 白銀の髪を綺麗に編んだ親友が、馬車から飛び出してきた。あいかわらず腰に刀をさげ、チュニックを重ね着した男装服だ。
 変わっているところは、左手の薬指に銀の細い指輪がはまっていることと、かすかに漂っていた悲しそうな陰が、残らず消えてしまったこと。

「サーフィ、会いたかった!」

 ラヴィも駆け寄り、抱き合う。
 手紙のやりとりはしたが、フロケンベルク王都が完全に閉ざされる冬の間は、その手紙すら届かなくなる。
 ルーディという最大の幸運を運んでくれた彼女が、幸せそうな顔を見せてくれるのがたまらなく嬉しい。
 再会に興奮し、立ったまま二人で近況を一気に話し合う。
 そしてサーフィの夫であり、ルーディの『お師様』でもあるヘルマン・エーベルハルトにも初めて会った。

「ルーディから貴女のことは聞いておりましたが、直接話すのは初めてですね」

「あー、その節はお世話になりました。お師さま」

 なぜかルーディは、気まずそうに咳払いした。
 氷のような瞳と美貌を持つ青年と握手し、ラヴィは心中で感嘆の溜め息をついた。
 実はちょっとばかりヘルマンに嫉妬していたのだ。

 ルーディは時々、懐かしそうに彼の事を話す。
 お師様は『すごく綺麗』で『家事も完璧』何より『狼状態の俺を撫でるテクがすごい』そうだ。
 ラヴィだって、ルーディは狼姿でくつろいでいる時、獣耳の付け根や喉を撫でてあげたりする。ルーディはとても気持ち良さそうに喉を鳴らすのだ。
 ラヴィは未だに犬が苦手で、狼は特に怖い。そんなことが出来るのは相手がルーディだから特別なのに。
 ルーディの褒めっぷりから、ひょっとしたらヘルマンに撫でられるほうが気持ちよかったのかと疑ってしまう。
 彼らは同性だし、変な意味じゃないのは解っているけれど、少なくとも彼はルーディにとって『特別』なのだ。
 自分でも理不尽だと思いつつ、会ったことのないヘルマンに嫉妬していたのだが……。

(本当に綺麗な人……)

 実際に目の当たりにし、嫉妬心は吹き飛んでしまった。
 劣等感の塊だったラヴィにはよくわかるが、人はあまりに次元がかけ離れた相手には、かえってそんな感情は抱けない。
 少し可愛い看板娘をやっかんでも、国民的な人気役者には羨望の目しか向けないように。
 男とか女とか、そういう問題ではない美貌に、優雅な物腰。かもし出す雰囲気が決定的に違う。
 ……ここまで完璧だと、ただ感心するしかない。

 それに、ヘルマンと隣に立つサーフィを見れば、彼らがどれほど愛し合っているかすぐ感じる。
 これは目に測れるものではなく、雰囲気で十分に伝わるものだ。

「サーフィ!ちょっと手伝ってくれ」

「あ、はい!ラヴィ、すみませんがまた後で」

 積荷の仕分けをしていた仲間に呼ばれ、サーフィは幌馬車に駆けていく。

「キャン!」

 甲高い小さな声がしたのはその時だった。幌馬車から、小さな白い生物が飛び出してきた。

「こら!出ちゃだめだって!」

 アイリーンの息子が追いかけたそれは、小さな足でタタッと駆け、ラヴィの足元でピタリと停まった。
 初めて見るその生物は、小さな短い尻尾をフリフリし、小首をかしげ、濡れた黒い大粒の瞳がじっとラヴィを見上げていた。

 首輪の代わりなのか、赤い絹のリボンを結んでいる。
 かすかにイヌ科の顔立ちをしているが、恐ろしさを微塵も感じさせない。
 かちりと目が合い、きゅうん!と心臓を射抜かれた気がした。

「可愛い!!!」

 そして何のためらいもなく、ラヴィは子犬を抱き上げたのだ。



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