三十八歳熟女滴る-5
「一方的に喋っちゃったけど……」
暗に坂崎の気持ちを窺う言葉であった。
「義兄さん、どう思う?」
「うん。何て言ったらいいかな。簡単な問題じゃないよね」
訊かれて是非を即答できる内容ではない。彼は曖昧に濁した。
「子供は諦めていたし、再婚も考えたことはなかったんだ……」
その時、真希子は奇妙な表情を浮かべていた。微笑んでいる。……
だが、たしかに笑みを漂わせているのにそこには別の感情が感じられた。意志の強さがはりついたような硬質感がある。その面持ちのまま真希子は話し出した。
「あたし、娘に嫉妬したの……」
「嫉妬?……」
訊き返した坂崎の声は掠れていた。
「彩香と美緒に……」
「……」
じわじわと迫るものを感じたのは彼に負い目があるからだ。
「どういうことかな?……」
真希子は言葉を出しかけて、ビールを口にした。これほど言い淀む真希子を見るのは初めてであった。
「だから、二人の自分の娘が……」
(まさか……)と思いながら、話の矛先は確実に痛点に向かっていた。
「彩香と美緒が義兄さんに愛された……」
坂崎は絶句した。
「……」
「二人の話を立ち聞きしちゃったの。何か様子がおかしいって感じて。……ショックだった……」
坂崎は覚悟を決めて絞り出すように答えた。
「……言い訳しようがない……」
身を縮ませて俯いた。
「ちがうのよ、義兄さん。ちがうの」
「ちがう?」
「義兄さん、いままであたしを女として見ててくれたでしょう?」
詰問してくると身構えていたら意外なことを言う。
「間違っていたらごめんなさい。あたし、昔から義兄さんの視線を感じてた。見られてるって。嬉しかった。好きだったから。だから、義兄さんに見られたくてかなりきわどい服にしたりしたの」
「真希ちゃん……」
「義兄さんのこと責めてるんじゃなくて、娘に対してでもない。セックスはあたしも高校の頃に経験してるから驚かないし、自分の意思なら構わないと思ってる。ショックだったのはあの子たちがあたしより先に義兄さんを知ったこと。だってあたしの方がずっと昔から好きだったのに……」
真希子の瞳は妖しく輝く。
「それで抑えきれなくなって電話したの」
昨夜の電話が思い出された。夜の買い物の途中、携帯からというやや不自然な理由がわかった。
「義兄さん、あたしには若さはないけど、あの子たちに子供を産ませられる?産むとしたらあたししかいないわ。そうでしょう?」
切ない愛の告白がいつの間にか方向が変わっていく。
「お姉ちゃんから話を聞いた時、あたし付き合っている人がいたんだけど、すぐに別れたの」
真希子に見つめられ、坂崎はやっと言った。
「別れたって、まさか、そのために?」
真希子は頷き、
「義兄さんといつかこの話をする時がきたらと思って、きれいにしておきたかった。真剣にそう思ったのよ」
信じ難い話だった。
(そんなにまで……)
それに、自分の娘と交わった男だ。それでもなお想いを寄せることなど出来るものなのだろうか。坂崎は疑念に突き当たって戸惑いに揺れた。
「義兄さん……」
真希子の眼差しが迫ってくる。思いつめていた心を開いてさらけ出した決意の光を感じた。女にここまで言わせておいて……。
「真希ちゃん……」
「抱いてください……」
顔面の紅潮は欲情と恥じらいが入り混じって艶やかな光沢をみせている。手を握り、二人は同時に立ち上がった。