出逢い-1
貴女の泣き顔、初めて見ました。
ベッドに横たわって僕の想いの限りを受け入れ、腕にしがみつく貴女の瞳が、濡れていました。
何を、そんなに哀しむ必要があるのです。
こんな関係となった事に、良心が苛まれてるのでしょうか。それとも、これからの未来を悲観してらっしゃるのですか。
でも、哀しむ必要なんて無いのです。今は未だ、こんな頼りない僕ですが、貴女に相応しい男になる為に努力しますから。
──そうです。僕は貴女と共に生きて行くと決めたのです。
「貴女について思う幾つかのこと」
船は速度を落としながら、港の防波堤を潜った。僕はデッキを左舷後ろへ向かい、とぐろを巻いて置かれた係留用ロープの一端を掴む。
左舷側に、船を留める桟橋が徐々に近づいて来る。スクリューが逆回転を始め、進む速度をさらに落とした。
「よっと!」
船は、歩くほどの速さで桟橋と平行に走っていく。桟橋と船の間は一メートル足らず。僕はロープを持ったまま桟橋へ飛び移り、素早く係留柱にロープの輪っかを引っ掛けた。
左舷と桟橋に固定された緩衝用タイヤが、ゆっくりと圧し潰される。僕は素早くロープを外し、係留柱に“巻き絞め”で固定した。波で船が揺れても緩まないよう、がっちり絞め上げれば係留は完了だ。
「ふう……」
ひとつ終わった所で、こめかみから汗が滴り落ちてきた。
でも、まだ終わりじゃない。すぐに乗客を降ろす準備がある。船と桟橋は固定しても、数十センチは間が開いてる。乗客がこの間に落ちないよう“渡し”という小さな橋を設けてやる必要がある。
僕は再び船に飛び移り、左舷後部にある乗降用扉を開けて、渡しを船と桟橋の間に取り付けた。
「ヨシ!終わった」
タイミング良く、船内からわらわらと、お客さんがデッキに現れた。
「お疲れさまでした!足下にお気をつけ下さい」
僕は一応、乗務員らしく笑顔を作り、降りてくる一人々をお礼と共に送り出す。
降りる際、無言で会釈してくれる人、「ありがとう」と言ってくれる人、全く無視する人。色んな人の様々な反応に、僕の心は感情が複雑に入りまじって、結構、神経が疲れてしまう。
此処は、本島までの距離がたった三キロしかない、小さな分島。人口は二百にも届かない。僕の生まれるずっと前は、今の十倍くらい人が居たそうだけど、今は面影だけを置いて、すっかり寂れてしまった。
こんな島でも、夏の間は観光客や里帰りと一時的な賑わいを取り戻す。だから、僕は夏休みの間、父を手伝って本島との連絡船に乗っている。
本当は、中学生が手伝うのは駄目らしいけど、父も、父の会社の人も何も言わないし、僕も“好い小遣い稼ぎ”だと思ってやっている。
どうせ来年には本土の高校に進んで、こっちに帰って来るか分からないから。