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貴女について思う幾つかのこと
【初恋 恋愛小説】

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出逢い-2

「──ありがとうございました!足下、お気をつけ下さい」

 頭を下げた僕の前を、最後の一人が降りていく。通り過ぎようとしたその時、潮風に混じって微かに爽やかな香りが鼻に触れた。

(好い香りだ……)

 僕は思わず、顔を上げて香りの正体を確かめようとした。嗅いだことも無い、好い香りだと思ったから。
 でも、そこに在ったのは、哀しみの目──世界中の不幸がひとつになって結晶化した、そんな目をした綺麗な女の人だった。
 身につけた鮮やかな朱色のワンピースと、長い黒髪や白い肌が相まってとても綺麗で、島なんかじゃ絶対に、お目にかかれ無い“大人の女性”を感じさせた。
 僕は、彼女を見た途端、金縛りにでも遭ったように身体が動かなくなり、だけど、目だけは彼女をずっと捉えて離さない。

「どうかした?」

 そんな僕の視線が、よほど気になったのだろう。彼女の方から声をかけて来た。

「い、いえ……ぼ、僕は、その……」
「じっと、わたしを見てたでしょ。どうして?」
「そ、それは……あの」
「人の目をじっと見ちゃいけないって、親に教わらなかった?」

 さっきまで哀しそうだった瞳が、今はちょっと怒ってる。僕は頭の中が真っ白になり、何の答えも見出せないまま、唯、しどろもどろとするばかりだ。

「あの……き、綺麗な人が……この島に来るなんて初めてだから……」

 ようやく出たのは、自分でも赤面しそうなほど浮いた台詞。でも、顔を紅潮させたのは彼女の方が先だった。

「子供が変なこというんじゃ無いの!」

 照れたような、怒ったような複雑な顔で頬を膨らませると、僕のおでこをツンと指で押してきた。

「ご、ごめんなさい……」

 仁王立ちの格好が、収まらない怒りを主張している。僕はすかさず謝った。

「君、幾つ?」

 許すという合図なのか、彼女は、これ見よがしなため息をひとつ吐くと、それから僕に問いかけて来た。

「えっと、十五歳です」
「十五……やりたい盛りか」
「えっ?」
「いえ、何でもない……」

 僕の返答に彼女は、暫く考える時に見せる、小首を傾げるような仕種をした後、「あのねえ」と、再び話を切り出してきた。

「──話す時以外で、人の顔をジロジロ見るのは失礼な事なのよ。覚えときなさい」
「はあ、すいませんでした」
「じゃあ、わたし行くから」

 僕は彼女に言いたい放題を言われ、それらに対して反論などするわけも無く、唯、黙って後ろ姿を見送った。


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