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貴女について思う幾つかのこと
【初恋 恋愛小説】

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出逢い-9

「ぼ、僕はただ……」
「ただ?」

 喉の奥が苦しい──そう思った途端、僕の口は思いもしない事になった。

「──貴女の……貴女の目が、とても悲しそうだったから」

 言わずにおこうとした言葉が出てしまった。彼女の楽しそうだった目は、一気に感情をなくした。

「それ、岬から穫って来たの?」

 一瞬にして空気が重くなる。すると彼女は、咄嗟に別の話を切り出した。やっぱり、触れられたくない話題だったんだ。
 僕の頭の中で、母の顔が思い浮かぶ。この人も、悲しみに耐えきれずに、此処に戻って来たみたいだ。

「そうです。さっきまで友達と」
「いいわね。わたしも子供の頃は、よく行ったわ」
「良かったら、あげますよ」
「いいわよ、せっかく穫って来たのに」
「いえ。いつでも穫りに行けますから」

 僕は、半分、無理矢理に収穫を分けてやった。
 岬の話をする彼女は、さっきまでと違った柔らかい笑顔を見せてるので、そうしてあげたくなる。

「じゃあ、これ」
「ありがとう……」

 父には悪いなと思ったけど、半分程を移し替えてやった。

「重いから、家の近くまで僕が持ちますよ」
「えっ?貴方、わたしの家知ってるの」
「知ってます……辰臣さん家の、さ、沙織さんって」

 言って後悔した。父との約束も、たったの二日で破ってしまった。
 さぞ、沙織さんは嫌な顔をしてるだろうと思ったら、意外にそうでも無い。

「そりゃそうよね」
「えっ?」
「こんな小さな島で、隠しごとなんか出来ないって事よ」
「まあ……そうですね」
「それが嫌で、一度は此処から逃げたのに……」

 こういうのを“さばさばした”と形容するのか、沙織さんは色々な事が判ってすっきりしたという顔をしていた。

「じゃあ、家まで持って来てくれる?」
「あ、はい」

 僕は、沙織さんと一緒に分かれ路を右に入っていく。昨日みたいな変な気持ちは無かったけど、代わりにかなり緊張してる自分が分かった。

「見てよ、あれ」

 彼女が指さす先には、家と家との間が広く開いていて、西の水平線まで見渡せた。

「高い所から見ると、また景観が違って綺麗ですね」

 群青色に染まった中にあって一部分だけ、茜色の帯が水平線を走る様子は本当に綺麗だ。

「また……」
「えっ?何か」
「君のその言葉。子供には十年早いわ」

 昨日もだけど、沙織さんは僕の言い方が気に入らないみたいだ。おかげで、せっかくの好い気分が台無しだ。


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