出逢い-7
「じゃあ、僕たち急ぐから」
僕は美咲に目もくれず、彼女の前を通り過ぎる。海人は不服そうだったけど、黙って後ろを付いて来ていた。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
美咲は、まだ何か言い足りないようだったけど無視した。
あれ以上関わってたら何を言い出すか、僕自身、解らなかったから。
「あいつ、変わったな……」
「そうだったね」
三年という月日が、これ程に人を変えてしまうと知って、僕は悲しい気持ちになった。
(じゃあ、あの人は……)
あの人が島を出てた期間は多分、五年間。彼女は美咲以上の月日によって、新たな考え方を持ったのだろうか。
それとも、僕の母みたいに、本土から逃げ出して来たのか。
「足の裏があっちい」
「……道が灼けてるからね」
僕達は複雑な感情を胸に、灼けた周回道を北に向かって歩き出した。
日差しが傾き、青かった空が黄色味がかってきて、風向きが変わった。
「そろそろ上がろうか?」
岩場だらけの岬は、海の生き物の宝庫で、潜れればサザエや紫ウニ、イボニシやスガイらはもちろん、イイダコや稚魚達であふれてる。
但し、サザエや紫ウニ、それに海藻類は穫ってはいけない決まりだから、僕と海人は、それ以外の獲物をせっせと穫っては網に入れていった。
「結構な量になったな」
「イボニシは、父さんの好物なんだ」
塩茹ですると、ちょっと苦味のあるところが好きらしい。
「じゃあ、全部やるから、代わりにイシダタミくれ」
イシダタミとはイシダタミガイの略で、茹でるととても美味しい。ちょっと惜しい気がしたが、海人には日頃から世話になってるから譲る事にした。
「大漁、大漁」
「今日の晩ごはん分くらいになるかな」
僕達は、お互いの収穫量に満足しながら、岬から上の道路へ続く小路を登っていく。
「なあ拓海」
それは、ちょうど道路に出た辺りで海人が言った。
「今度は、あっちにカメノテを穫りに行こう」
「カメノテって、あそこは…… 」
カメノテとは、名前の通り亀の手に似た形の海老、蟹の仲間で、形に似合わず味は絶品な代物だ。
唯、生息地が崖と海の境目辺りでいつも高い波が打ちつけ、足掛かりになるような場所が少なく危ない。
「ガードレールの支柱に縄を掛けて、岩場に足場を打ち込めば大丈夫だよ!」
「そんなに言うなら……」
正直、考え方に賛同したわけじゃないげど、普段が忙しい僕を海人が気遣ってくれてるのが解るから、即座に断れない。