出逢い-5
「何で戻って来たんだろう……」
僕は思いを廻らせる。父に他人事に構うなと言われたけど、そんなのは無理な話だ。
「一方的に言われて……」
僕はおでこに手を当てた。彼女が押した辺りを指で撫でてみる。
(そう言えば、この先だったよな)
島の家々は、小山のような傾斜に貼りつくように、段々と築かれている。台風や大波から守る為、車も通れない細い路地が、幾つもに分かれてる。
自宅へ続じる路地の途中に分かれ路があり、右に折れたその先が辰臣さんの家だ。
(どうせ、父さんは遅くなるんだし……)
分かれ路に差し掛かった所で僕は立ち止まる。ひょっとしたら会えるかもという、淡い期待があった。
(やっぱり、夜分に他人の家を覗くなんて非常識だよな)
右に踏み出そうとして躊躇ってしまう。想いと道徳が僕の中で激しくぶつかり、平行をたどったまま纏まらない。
(僕は……いったい何をやってんだ)
足は、分かれ路を左に踏み出した。どうやら僕には、まだ道徳を打ち破るだけの“想い”は無かったみたいだ。
「さあ、帰ろう!」
僕は駆け出した。家々からこぼれる明かりによって、浮かび上がった路地の中を変な考えを振り切りたくて。
あの人と逢った初日。僕はすでに、おかしくなっていた。
「なあ、拓海……」
「……」
「こんなことしてて、楽しいのか?」
「うん、まあ」
翌日の午後。僕は海人の家を訪れていた。
「まあって、ずっと漫画読んでるだけじゃないか」
「もうちょっと……今朝も早くってさ」
今朝は七時起き。朝ごはんと洗濯、掃除で、午前中いっぱい掛かったから身体がダルい。
「親父さんは?」
「ここに来る前は寝てた。遅かったみたいだし」
父がいつ戻ったのか僕は覚えてない。多分、夜中だったようだ。今朝も布団に潜りっぱなしで起きなかったし。
結局、僕が一人でやる羽目になってしまった。
「あれから、ずっとお前が家事やってるのか?」
「まあね……仕方ないよ」
「親父さん、いい加減に……」
僕の視線に気づいた海人は、言いかけて止めた。