出逢い-13
「──美咲のお母さん、診療所に入院しててね。日曜以外は毎日、顔出しに行ってるの。
昨日は、新しく買った服を見せに行くとこだったそうよ」
なるほど。どうやら馬鹿なのは、僕の方だったみたいだ。
理由のひとつは解ったけど、もうひとつは、
「あの派手な格好は、どういう理由なのさ?」
「あれねえ……」
渚は、そう言ってため息をひとつ吐くと、視線を海に投げた。
「あの子、学校で一人ぼっちみたい」
「一人ぼっちって……いじめに?」
「そうじゃないけど、大人しいからクラスの誰とも馴染めないって。その反動じゃないかな」
「その、一人ぼっちってのは確かに?」
「ええ。わたし、そのクラスの子に直接相談されたから」
教えられて、口の中に苦い物がこみ上げて来た。
それでも、教えてもらえて良かった。知らなかったら、見過ごしていた。
「だから言ったでしょう。放って置きなさいって」
「いや。僕は美咲に謝りに行くよ」
「どうして?拓海がどうこう出来ることじゃないのよ」
「美咲は助けを求めてる。だから僕は、今までのことも一緒に謝りたいんだ」
「言ってる意味が解んないんだけど?」
「いいよ。教えてくれて、ありがとう!」
僕は渚にお礼を言って、周回道を北に駆け出した。色々な事が解って、何だかすっきりした気分だ。
(今から、間に合うかな)
美咲は今頃、帰り着いたところだろう。家の近くになったところで連絡すれば、会ってくれるかも知れない。
僕は、美咲の家に向かって走る。もう少しで、彼女とぶつかりそうになった路地だ。
──えっ!?
視界に“ある者”が映った瞬間、僕の足は、アスファルトを掴んで急制動をかけた。
(な、何でこんなところに……)
長い黒髪と白い肌──僅かな明るさの残る中で僕の目は、前を行く人が沙織さんであると認めた。
(それにしても……)
彼女の家は、まったくの正反対なのに、しっかりとした足取りで何処かへ向かっている。
(何処に行くんだろう?)
一瞬、ついて行きたいと思ったけど、美咲とのことが先だと思い直して諦めた。
「此処から、連絡するか」
美咲の家へ続く路地の前で、僕は彼女に電話を入れた。
一回、二回と呼び出し音が耳に響く間も、頭の中は沙織さんのことを考えていた。
「……なに?」
六回目の呼び出しで出た美咲は、相変わらずの敵意を声で表した。
「話があるんだ。今から会えないかな?」
「電話で言えよ」
「謝りに来たんだ。電話じゃなくて、直接会って話したい」
「今さらいるかよ!」
何度もの平行線をたどりながらも、引っ込まない僕に美咲は呆れたのか、やっと了解してくれた。
「ふうーっ。これでよしと……」
気がつくと、空はすっかり暗くなり、星が瞬いていた。
沙織さんと出逢って三日目。僕は不安な思いの中で、美咲の家へと向かっていた。
「貴女について思う幾つかのこと」出逢い 完