特に、何も……-1
はっと目覚めて飛び起きた。
(またやった)
カーテン越しの日差しはすでに眩しい。部屋の中はムンムンで汗びっしょりだ。
八時十分前。
(時間がない)
ジーパンを穿き、昨日着ていたTシャツを頭にくぐらせて歯磨きだけすませると外へ出て自転車に跨った。
職場まで急いで八分。シャツが汗臭いのは自分でもわかる。でも仕方がない。洗濯物が籠に山になっている。その中に埋もれている物よりましだ。洗わなければと思いつつ、つい一日延ばしになってしまう。着るものがなくなってやっと行動を起こす。
(きちんとしよう……)
考えているのに、なぜそうなってしまうのか、わからない。
(明日は日曜日だから全部片付けよう……)
会社到着は八時十分。社員は八時出勤だからたいてい遅刻。あと五分で朝礼が始まる。
「おはようございます」
「須田さん、パートさんと同じじゃ困るよ」
「すいませーん」
所長の言葉を立ち止まらず聞き流して更衣室へ飛び込む。着替えといっても制服代わりのエプロンをつけるだけだ。
メモ帳を手にぱたぱたと広間に行くと全員が揃って私を待っていた。
朝礼が済むと、送迎表を見て自分の担当ルートを確認して軽自動車に乗り込んで出発。デイサービスの一日がスタートする。
三人の利用者さんを乗せてくる。人が手薄な時はピストンでもう一ルート回ることもある。
送迎が終わってからが大変だ。担当ルームの約三十人をだいたい八人のヘルパーと看護師で半日世話をする。手がかかる利用者がいる日は臨時にパートさんを頼むこともある。
まず血圧を測り、お茶を配りながら、午前、午後の予定をそれぞれに伝えて回る。リハビリする人の順番、手芸や工作などの趣味講座、カラオケの希望者を取りまとめて準備する。利用者は認知症だったり歩行が困難だったり、どこかしらに障害を抱えているから常に目を向けていなければならない。はっきり言って、保育園より手がかかる。自分勝手で我が強い人もいれば、何も言わないで何をしてほしいのかわからない人もいる。プライドの高い人も厄介だ。
トイレに行く時は必ず誘導して、用が済めばまた席まで連れていく。息を抜く間はない。食事時だってゆっくり食べてはいられない。お茶が欲しいとか味噌汁を温め直してくれとか、一日を通してみるとほとんど立ちっぱなしだ。だから腰を痛める職員も多い。
五時半に退社して、買い物をして、家へ帰ると六時半。とりあえずエアコンとテレビをつけて、缶ビールを喉を鳴らして飲む。
「プハーッ」と息を吐いてベッドに腰を下ろし、一日の反省、なんてことはしない。疲れたから首を回して、
「明日は休みだぁ」
それだけが嬉しい。でも明日の今頃はサザエさんも終わって、もう一日が終わっちゃったって、がっかりしている。一応週休二日だけど、ローテーションによるから連休になるのは二か月に一度くらいしかない。
ベッドで冷風を浴びながら、たっぷりの時間がある、と、思うんだけど、疲れてちょっと横になる。それがいけない。起きると九時近い。おなかが空いて目が覚めたようなものだ。
「誰か何か作ってよ」
食べるだけだったらどんなにいいだろう。
テレビを観ながらレトルトのパスタを食べて、デザートはスーパーで買った妙に柔らかい皮のシュークリーム。味は悪くないけど、ふにゃふにゃして押し込めば一口で終わってしまって食べ応えがない。損した気分になる。今度は他のケーキにしようと何度も思っているのについ買ってしまう。九十八円で安いからだ。
それから二本目のビール(発泡酒)をちびちび飲みながらテレビを観る。つまらないと思いながらだらだらと観てしまう。結局、寝るのは午前二時頃。だから朝起きられない。帰ってすぐ横になるのがいけない。わかっているんだけど。……