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特に、何も……
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特に、何も……-6

 これまで自分が何をしてきたのか、考えてみると何もしていない。朝寝坊して、慌てて会社へ行って、その場その場のことに追われてあっという間に夜になる。
 たまに、ふと、柄にもなく、人生って何だろうと思いつめることがある。人生を振り返るほど生きてはいないけど、『道』っていう感じはする。
 たぶん色々なことがあって、その年月を辿ってみるとそれが『道』になっているのだろう。知らないうちに出来上がっているものなのだろう。
 生きていくことが『道』になるなら、誰もが自分だけの『道』を持つ。どんな道になるのかは自分の生き方次第だ。
 道は障害を避けて出来ることが多い。自然と歩きやすい地形を選んでしまいがちだ。反面、切り拓くこともある。困難に立ち向かって歩いた道は自分を大きくするような気もする。
 道は造るものなのか、造られるものなのか。
 生きていく『道』は目に見えない。何もしなくても歩いていることになるとしたら、それはただ時間が過ぎていくだけのことなのかしら。見えなくても未来に『道』が続くと思わないと、やっぱり生きていけない気がする。何かがあるって信じないと落ち込んじゃう。これから先に何があるかわからなくても自分の『道』があるんだって思わないと。でも、行き止まりって、ないだろうな……。


 日曜日の昼。いつものように中野さんとお弁当を食べているとインターホンが鳴った。椅子から立ち上がるとドアが開いて、
「入るでえ」
女性の声が聞こえ、玄関に行く間もなく見知らぬ女が居間の襖を開けた。
「あら、お客さん?」
驚いた様子も見せず、
「友達からブドウもらったから持ってきた。食べてな」
「あ、そう、ありがとう。いつも……」
珍しく中野さんの態度がどこか不安定に感じた。

「こちらヘルパーさん」
私が挨拶すると、ちらっと目を向けただけで、
「へえ、そんなん頼んでんの。知らんかった」
「週一回だからね」
「ふうん。それで何してもらうん?」
「いろいろ。買い物とか掃除とか」
「そんなんだったらあたし、してあげるし。もったいないわ」
中野さんは苦笑しながら、隣の棟に住んでいる人で世話になっているのだと紹介した。私は親戚の人かと思ったのだが、他人と知って少しカチンときた。
(図々しいし、失礼な人……)
齢は六十前後か、自分の親と同じくらいに思えた。その齢からしたら服装は相当派手である。黄色のスカートは超ミニで、まるで女子高生の制服みたい。茶髪の髪形も若作りを超越している。関西訛りの言葉がずけずけ入り込んでくる。

「中野さん、若い娘がええんやろ。まったく男はいくつになっても変わらんなあ」
「何言ってるの。ヘルパーさんだよ」
「そのヘルパーも齢いったヘルパーじゃ嫌やろ?」
「関係ないよ」
人のことはお構いなしで喋る。中野さんは弱り切った様子で笑っているだけ。

「そっか。どっかお昼でも食べいこかって思ってんけど、もう食べとんね」
「日曜日はヘルパーさんが買ってきてくれるんだ」
「そう。そらええな。お楽しみで。じゃ、お邪魔しちゃ悪いから今日は退散するわ。またな」
私に向かってにやっと笑って帰っていった。ふくらはぎに静脈が浮き出ていて何だか気持ち悪かった。


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