まさかの自由研究-1
「マサトくん、遅いね」
約束の時間になってもあらわれない理人のことを心配して、萌恵は手首にはめたキャラクターの腕時計を見ながら、首をかしげる。
「寝坊してんじゃないの」
「ゲームやりすぎて?」
「それはハカセだろ。マサトは勉強マンだからなあ」
健太郎と博士はさほど深読みもせずに、リュックから携帯型ゲーム機を出して遊んだりしている。
「あ、マサトくん、来た」
萌恵の指差す方角から、野球帽をかぶった理人が全力疾走してくるのが見えた。
サンダルをけたたましく鳴らしながら、まさかオリンピック選手の真似でもしているのか、ゴール地点では両手で万歳までして、最後はちっちゃくガッツポーズだ。
「マサト、遅いよお」
「余裕で遅刻してんじゃん」
「図書館、もう開いちゃってるよ」
3人からのありがたくない出迎えに、
「ごめん、ごめん、うちの姉ちゃんが変なこと言うからさあ」
家族のせいにする理人少年。
「変なこと?」
「うん。この図書館てさあ、女の幽霊が出るんだってさ」
「幽霊?」
「都市伝説とかいうやつ?」
「わたし、トイレの花子さんなら知ってる」
「ただの噂だよ、いるわけないじゃん」
そんなふうに超常現象を否定する理人だが、じつは半信半疑の中途半端な気持ちのままで、すごくモヤモヤしていた。
あらためて4人で整列すると、図書館の自動ドアをくぐった。
「天国う……」
「南国う……」
「北極う……」
中へ踏み込んだ瞬間の冷気のシャワーを全身に浴びて、調子のいいことを言う男子3人組。
「図書館の中なんだから、静かにしててよね」
萌恵が口をとんがらせる。
学級委員には夏休みもないようだ。