十八歳果実熟れ頃(1)-1
(10)
彩香が帰って数日の間、坂崎は気が抜けた思いで日々を送った。彼女の幻影が取りすがりたいほど室内のあちこちに映じて彼を惑わす。二人で絡み合ったあまりに鮮烈な時間がそのまま激しい息づかいとともに残っている気さえする。
伸びやかな女体を思い浮かべて抱きしめてみる。ああ、可憐な唇、薄紅色の乳首、小さな突起を彩る乳輪は恥じらいの色に染まっているようだ。
(彩香!)
乳首を舌で弾きながら両手で尻を包む。……坂崎は溜息をついた。
現実ではないから気持ちは狂おしく、深く落ち込むことになる。
(彩香……)
使っていた枕に顔を埋める。布団を抱きしめて愛欲の時を再現したりした。
あの土曜日は半日裸で過ごした。ほとんどもつれあっていたので服を着る必要がなかったのだ。
彩香は初めてペニスを咥え、彼も秘唇に口をつけて丹念に愛撫をほどこした。彩香は全身を反らせて反応を見せたが、結局絶頂を迎えることはなかった。
当然ではある。まだ未熟な花びらが散った翌日では無理もない。だがそれとは別に強引に過ぎたきらいもある。自分に捧げてくれた無垢な肉体。人生でたった一度しかない初体験の結合。
(もっと大切に接すればよかったか……)
考えれば考えるほど後悔がよぎる。だから、
(俺が最初に導いてみたい……)
その想いがさらなる煩悶となって胸を焦がすのだった。
(こちらから誘えないものか……どこか、そう、ディズニーランドに連れていく……)
それなら真希子にも言い訳がきく。
本気で考えているところへ真紀子から電話があった。少し慌てたのはタイミングもあったが、不安が過ったからだった。
(何の電話だ?……)
彩香が帰った日の夜に礼の電話があったからそのことではない。その時の緊張といったらなかった。
娘に何か変化があったら母親は感じるものではあるまいか。男にはわからない同性としての勘のようなものがあるのではないか。私の応対は硬くなっていた。だが真希子は彩香が世話になった礼を言うばかりである。
電話を切ってからどっと力が抜けたものだ。
(ならば、その後何か不審を感じたのか?……)
「この間はすみません。あとから聞いたらお小遣いまで頂いたって。あの子すぐに言わないものだから」
話はそのことかとほっとして応じていると、意外な方向に変わっていった。今度は長女の美緒を泊めてくれないかというのである。
「何だか続けて厚かましいんだけど……」
美緒は高校三年生。受験生である。
「いろいろあったけど、おかげさまで何とか……」
大学のスポーツ推薦でほぼ決まっているのだが、最終選考で夏期合宿に参加することが条件なのだという。美緒はバドミントンをやっていて。県大会で上位に入賞したと聞いている。
「たいした学校じゃないんだけど、決まれば安心だし。最終選考っていっても形式みたいなものらしいの。入学の意思があるかどうかの確認なのね」
「じゃあ、決定ってことだ。おめでとう」
「ありがとう。でもそれほどのところじゃないのよ」
真希子はしきりに学校のレベルを口にしながらやはり嬉しそうである。
それで、バスの出発が朝早いので前日に一泊したいというわけだった。
「浜松町八時出発なの。地方の子はみんなホテルに泊まるらしいんだけど、美緒も彩香と同じで伯父さんのところがいいって。すみません」
「そう。そんなこと気にしないでよ」
「彩香から美味しいもの御馳走になったって聞いて、あたしも行くなんて言って、まったく困っちゃう」
「合宿だったら栄養つけていかないと。任せてよ」
話しながら、歓びが胸にこみ上げてくる。それは無論、伯父としての想いではない。
(彩香の代わりに美緒が来る……)
迷いもなく『女』としての美緒が浮かんでいた。
さすがに彩香と同じ展開を妄想したわけではない。合宿前に一晩泊まるだけだ。だが、それだけでも胸が高鳴る。ピチピチの若い女と二人きり、そして女体をじっくり眺めるのだ。
「一か月くらい前からホテルを予約してあったのに、急に言い出すんだもの」
「それで、いつなの?」
「来週の土曜日。ご都合、どう?」
「いいよ。空いてる。休みだから早めに来てもいいよ」
坂崎はともすれば上ずる調子を押さえながら、早め、を強調した。
電話後、思わず顔がにやけた。
(十八歳……)
そわそわして落ち着かなくなった。
(美緒……)
彩香と比べると長女だけあって小さい頃からしっかりしていた。はっきり物を言う性格である。切れ長の目で、黙っているときつく見えるのだが、微笑むと目元が大人っぽく感じられたものだ。背も高く体格もいい。スポーツを続けているのだがらきっと引き締まった体なのだろう。
(バドミントンだから日焼けはしていないな……)
どれだけ成長してるだろう。坂崎はむちむちの肉体を思い描いて大きく息をついた。