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子羊の悩ましい日々
【ファンタジー 官能小説】

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『子羊の悩ましい日々 〜デュラハン編〜』-2

「はい、そうです」
 デュラハンはシュンとした声だった。長い金髪をして、切れ長の瞳の凛々しくも美しい容姿だが、今はその表情はしょんぼりとしている。
「つい『死の予告』と同じことをしてしまいました。今日は目的が違いますのに、私ったらドジで……」
 最初の物騒な言葉さえなかったら「はは、ドジだね」ですむが、ロイは慌ててきいてみる。
「まさか僕を一ヵ月後に殺すなんてことはないですよね?」
「はい、子羊さんを殺すことはモンスターにはできません」
 その言葉にほっとする。
「今回は、えっと、その……」
 白く美しい頬がほんのりと朱色に染まる。
「私の、せ、せ、せ、性交渉の練習なので、別のものをかけないといけませんでしたのに」
「……ちなみに別のものって?」
 デュラハンは恥ずかしさで自分の頭部を背後に隠す。
「そ、そ、そ、その、私のお小水……」
「…………」
 ロイはおしっこをかけられないですんだのはよかったとすべきなのか迷うところであった。血でベタベタの惨状も決してベターとは思えない。
「えっと、あの、どうしましょう、もう一回最初からやった方がいいですか?」
「いや、それはそれでちょっと……」
「ああ、どうしましょう……」
 デュラハンがおろおろしていると、突然デュラハンの背後から声がした。
「ああ、もう! じれったいわね!」
 ロイはもう一人デュラハンがいるのかと思い、何かかけられてもかわせるように足に力を入れつつデュラハンの背後を見た。
 すると、そこにいたのは首のない馬であった。そして、その馬の身体の横には鮮やかな赤毛のポニーテールをした十代半ばぐらいの美少女の頭が浮かんでいた。
「あの、あなたは?」
「あたしはコシュタ・バワーのナナよ。ちなみに、そのデュラハンの名前はレナ。よろしくね」
「コシュタ・バワー……」
 ロイは昔読んだ文献を思い出した。デュラハンが乗る戦車、それをひくのはコシュタ・バワーと呼ばれる首なし馬だったことを。だが、まさかその馬がケンタウロスのように、上半身が人間のそれと同じとは知らなかった。やや小ぶりながら形のいい胸が丸出しになっている。
「とにかく、最初からやり直すのもめんどくさいでしょ。今は子羊くんについた血を洗い流すのが先よ」
「そ、そうだね、さすがナナ」
「もう、レナったら早く馬離れしなさいよ」
 どうやら、レナというデュラハンはいつもこの調子で、ナナがフォローにまわることが多いらしい。

「ふう、広い風呂場ですね……」
 ロイとレナ、そして馬のナナの3人がいても十分に余裕がある広さの風呂だった。ロイはレナのちらちらとこちらを覗き見る視線を気にしながら裸になると、桶でちょうどいい熱さのお湯をすくって身体を流す。
「あ、あの、私がお手伝いします!」
 レナは間違えた責任からか、ロイが手に持つ桶を取ろうとする。そのとき、レナは足元にある石鹸に気づかずに見事に転び、そのまま湯船に飛び込んでしまった。まだ部分鎧をつけた状態で。パニックになったのか、じたばたと暴れてなかなか湯船から起き上がれないレナ。空を飛べる頭部は巻き込まれなかったので息ができないというような事態にならなかったのは不幸中の幸いか。
「……いつもこうなんですか?」
「……うん」
 ロイとナナは深いため息をつくと、暴れるレナをなだめながら湯船から救出する。


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