★ONE 抱き締め!★-1
ある日サークルメンバで海へ行った帰り、
現地解散となったので少しだけ防波堤を二人で歩いた。
夕暮れの海。波の音と頬を撫でる潮風が気持ちよかった。
ひとしきり歩いた帰りは1.5m程の高さの
コンクリート構造物の上をのんびり散歩。
なぜか無言でも心地よかった。
・・・と、行き止まり。階段的なものは遥か後方に。
戻るのも面倒だったので飛び降りた。
振り向くと胸の高さ程のコンクリートの縁に立つヒロカ。
どうしようかと迷う隙を与えず
真っ直ぐ手を差し伸べるオレ。
一瞬の躊躇の後、こちらに手を伸ばし、
徐々に前のめりに屈み込む。
やがて完全に身体は傾き、
もう引き返すことなど出来ない状態。
ヒロカの両手がオレの肩に乗り、
オレの両手がヒロカの脇腹を支えた。
トン、と蹴ったかオレが引き上げたのか、
ふわっと空中を経由して地面に舞い降りた。
実際には1秒程度かもしれないが、
オレには30秒以上のスローモーションに感じた。
軽かった。そのまんま「軽っ!」としか言えなかった。
あのまま下ろさずに一気に強く抱き締めてしまえば・・・、
ゲームの様にやり直しができ、
今を壊さずに別の体験も出来たなら・・・、
切実に望む行動選択肢だ。
『やめて!』と冷たく振り払われ、
腹を立てて帰っただろうか・・・。