見え隠れする想いX-1
互いに起きたこと、曄子が無事であったことを詳しく話しているうちに辺りはずいぶん明るくなってきていた。
「葵さん、眠らなくて平気ですか?」
温めたミルクを手渡しながら秀悠が気遣わしげに顔を覗きこんできた。
「秀悠さんこそ・・・お疲れではないですか?」
「私は平気です、薬草の調合で徹夜するなんてよくあることなんで」
ははっと笑った秀悠だが、目の下にうっすらと隅(くま)が出来ているようにみえた。
「もしよかったら・・・」
長椅子へと移動した葵は端っこに座り、秀悠の名を呼んだ。その様子をじっと見つめていた秀悠は・・・
「えっと・・・あの・・・・っ」
おどおどした様子の秀悠にも動じず、葵はにっこりと手を差し出して来る。
「こう見えて、人を癒すのは得意なつもりなんです。遠慮はいりません」
そんな葵の言葉を聞いても、秀悠の内心は穏やかじゃない。少しずつ距離を詰めていくと、胸が苦しいほどに高鳴ってゆく。
「で、では・・・少しだけ・・・」
平静を装いながらゆっくりと長椅子に横たわり、葵の膝に頭をのせた。上から見下ろしてくる葵の髪が頬にかかり、甘い眠気のようなものに襲われる・・・。長椅子は固めなのだが葵の膝はとても柔らかく、極上のベッドの上にいるような気がしてきた。
「ゆっくりおやすみくださいな」
その声が降ってきたかと思うと、光を宿した葵の手が秀悠の頭をなで・・・心地よさに目を閉じるとそこで彼の意識は夢の中へと落ちていった。
労わるように彼の肩や頭をなでる葵の体から淡い光が発せられ、やがて光がはじけ飛び空を舞う。葵の祈りは空や大地を巡り・・・神官たちの元へも降り注いだ。
「・・・葵が祈っている」
すっかり化粧をおとした大和は手を差し出して葵の光に触れるとそれを肌で感じていた。
「もう気配も消す必要がなくなったんだし、どこにいるかわかれば安心だな」
ゆっくりと近づいた蒼牙が大和の背後から顔を出した。
「蒼牙・・・俺達は葵を引き留めるべきだったのだろうか」
俯き加減に言葉をつむぐ大和に蒼牙が不思議そうに顔を向けた。
「ん?なんでそう思った?」