是奈でゲンキッ!V 『プロジェクトZ 挑戦し過ぎた者たち!?』-5
それもそのはずである、何と目の前に有るのは数日前、嘉幸が是奈の父親である善太郎に頼まれて、選んだ自転車そのもので有ったのだ。
まるで鏡のように周りの風景をも映し込んで、キラキラと輝くゴールドメタリックな自転車は、ママチャリと呼ぶには余りにも高級で、派手である。
「なあ斎藤……これってこの間……坂下りをやったB組の女子の……」
「ああっ『朝霞 是奈(あさか ぜな)』、彼女のだぜ。ほらっ、泥除けに名前が書いてあるじゃんっ!」
嘉幸はもう、全身を汗だくにしながら、ただただ足を振るわせるばかりであった。
そのころ2年B組の教室では。
「ねえねえ見た見たぁー! 是奈ちゃんの新しい自転車っ! 派手って言うかさぁ、なんかこう……やっちゃったって感じだよねぇ」
例によってクラスメイトの『佐藤 都子(さとう みやこ)』がそんな話題に触れて大騒ぎを始めると。
「是奈もなぁ……そう言う子じゃ無いと思ってたけど。田原に嫌われたのが相当ショックだったんだろうなぁ。まぁ〜やけを起こしたく成る気持ちも、解らんでもないがなぁ……」
と、都子の親友『中村 彩霞(なかむら あやか)』までもが、訳の解らない解説を入れたりする。
「あの〜……わたし聞いたんだけどぉ、朝霞さんって確か『スペースヒーロー』とか言う、アニメのファンだったんじゃないかしら」
仲良し三人組の一人『藤平 真由美(ふじひら まゆみ)』も、そんな事を言いながら話に加わって。
「そう言やぁ〜『スペースヒーロー』に出てくる悪役の美形キャラが、金色のロボットに乗ってたっけ。なんだ是奈の奴、そいつの真似かぁ」
「や〜ね〜もう。是奈ちゃんったらオタクなんだからぁ」
彩霞と都子で勝手にそんな事を決め込んで、仲良し三人組はゲラゲラ笑っている様子だった。
(聞こえてる〜! 聞こえてるってばぁ三人共ぉ〜!!)
是奈はそんな事を心の中で叫びながら、頭を抱えて机に伏せ込んで。
「だから嫌だって言ったのにーーぃっ! お父さんったら『是奈よろこべっ! これがお前のニューマシンだっ! テストはしてないが、行けるぞ是奈っ!!』とか何とか言って、あんな派手な自転車買ってきちゃうんだもんな〜〜ぁっ! 恥ずかしいったら、ありゃしないっ!!」
そんな事を呟きながら、滝の様な涙と鼻水を垂らし捲くっていた。
そんな是奈の姿を、B組入り口の扉に隠れながら見ていた嘉幸であったが、なにやら青ざめた顔を更に青くすると、そのまま幽霊のようにフェードアウトして、是奈が再び彼の姿を見たのは、随分と後の事のようであった。
おしまい。