潜入X-1
鉄格子から差し込む月の光が、横たわる曄子の頬を冷たく照らしている。
薬を嗅がされたのか、数時間前から彼女はピクリとも動かなかった。
そこに二つの影がゆっくりと近づく。
安堵というより・・・半ば呆れたような声が響いた。
「居場所を見つけたのですから・・・あとは秀悠さんにでも任せてはいかがでしょう」
曄子を気嫌いしている仙水はそれ以上鉄格子へと近づこうとはしなかった。
だが、珍しく九条は歩みをすすめ、鉄格子の中に倒れている曄子の姿を横目で確認した。
「九条・・・あなたが葵様の事以外で自らすすんで行動を起こすなど珍しいですね」
後ろをついてくる仙水が目を閉じたまま声をかけてきた。
「・・・葵に弱みがあってはならない・・・弱点となるものは排除するまで」
「・・・・」
冷酷な九条の言葉を聞いても仙水は止めようとしない。葵と天秤にかけて彼女より重いものなど彼らには存在しないからだ。
―――――・・・
蒼牙が仙水たちの気配を追って走っていると、途中で秀悠が古い建物に足を踏み入れようとしている姿が視界に入った。
「何やってんだあいつ?」
ひとけのない建物に幽閉されているのではと考えた秀悠は手当り次第、住む者のいない古い家屋を探し回っていた。
「曄子さーーん!!いませんか!!」
奥から聞こえる秀悠の声に蒼牙が足を速めた。
「秀悠のおっさん!!まだ見つからねぇのか!!」
「この声は・・・」
遠くで聞こえたと思った蒼牙の声に振り返った秀悠だが、蒼牙の顔はすぐ目の前にあった。あまりの速さに秀悠は言葉を飲み込んでしまった。
「ん?何固まってんだよ?葵は見つかったぜ!!」
「ほ、本当ですか・・・っ!!」
だが、思わず蒼牙の手を握りしめた秀悠はガックリと肩を落としてしまった。
「すみません・・・曄子さんがまだ見つからなくて」
「葵のことは大和が見張ってる。その間に俺たちで見つければ・・・」
・・・ふと、九条の気配が大きくなり町はずれの方から轟音が響いた。大地を揺るがすような地響きに蒼牙は慌てて秀悠を連れて外へでた。