潜入V-1
「私はあなたに気にかけてもらえるあの二人が羨ましい・・・どのような偶然で出会えたのか、そしてあなたの御心の片隅に記憶してもらえるなど・・・・なんという幸せ」
神楽の指先が葵唇をなぞり、切なげに歪んだ彼の表情はいつかの仙水を思わせた。
(この眼差し・・・仙水も同じような・・・・)
ズキリと痛む胸に葵は顔をしかめた。
葵はわかり始めている。この痛みは相手が抱いているどうしようもない心の痛みであることを・・・。
「あの町医者もあなたに好意を寄せているのは私の目からも明らかだった。目障りで仕方ありませんでしたよ・・・」
ピタと動きを止めた葵は神楽の声に顔をあげた。
「でも、あなたは相手の気持ちを知っていても気が付かないふりをしている。確信に触れることを避けているように見えた・・・」
「そ、それは・・・」
葵の不安が的を射て体が小刻みに震えだす。
すると、表情を和らげた神楽は労わるように葵の頬へと唇を押し当てた。
「少々いじめ過ぎましたね。
雷帝ゼンがあなたの恋人だともっぱらの噂なので心配しておりましたが、今の反応でよくわかりました。あなたはまだ誰のものでもない」
気を良くした神楽はクスリと笑って葵の腰を引き寄せた。
「あなたは心も体も真っ白だ・・・私の色に染められたあなたを早く見たい・・・」
「誰かの色に染まるなど私には・・・っ」
葵が否定的な言葉を述べようとしたとき、一際大きな歓声が壁越しに聞こえてきた。
――――・・・
流れるような動作で見事に舞を披露しているのは、どこからどうみても美しい舞姫にしか見えない大和だった。彼が舞えば微かな花の香りがし、その妖艶な視線に男たちは釘づけになった。
傍らでは、なんとかごまかしながら三味線を奏でる蒼牙。その鋭い瞳はひとりの少女の面影を探してあちこちに向けられていた。
(あやしい動きをしている者は・・・
まさかこの建物に葵はいないのか・・・?)
次第に大和の不安が大きくなり、一曲目が終わろうとしていた頃・・・
神楽に肩を抱かれ、彼らが探し求めていた少女が通路からこちらを見ていることに気が付いた。
「葵・・・っ!!」