潜入U-1
「ぷっくくくっ」
大和の隣で声を押し殺したように笑っている蒼牙は女装さえしていないが、同じように和の国の衣装に身を包み弾けるわけのない三味線という楽器を手にたたずんでいる。
「おい蒼牙・・・
打ち合わせ通りにうまくやるんだぞ?お前は楽器が弾けないんだから・・・出だしくらいの音は外すなよ?」
「だぁいじょうぶだって!!音のひとつやふたつ何とでもなるっての!!しかしお前のその姿・・・葵がみたらどんな顔するだろうなーっ!!」
と、蒼牙はまた腹を抱えて笑っている。
(葵にはこんな姿、絶対に見られたくない・・・しかし、これで堂々と室内を見渡せるのだから・・・)
袖を握りしめた大和に声がかかり、胸元から取り出した舞用の扇を取り出すと広間への扉が大きく開かれた。
「いくぞ蒼牙。どんな小さなことでもいい手がかりを探すんだ」
「任せろっ!!」
――――・・・
その頃、隣の一室で神楽に寄り添われその身を固くしていた葵は先程よりも大きな賑わいを見せる民たちの声に気が付いた。
(・・・何か楽しいことがあったのかしら・・・)
やはり聞こえる声は嘆きや悲しみの声ではないほうがいい。いつでも民の幸せを願う彼女は、自分の身がどのような状況にあったとしてもその事を願わずにはいられないのだ。
「・・・少し騒がしくなってきたようですね。場所を変えましょうか?」
愛しい王との時間を邪魔されたことに苛立ちを見せた神楽は大きくため息をついた。
「いいえ、皆の声がよく聞こえて・・・私には心地よいくらいです」
目を細めて声のするほうへと視線を向ける葵をみて神楽はその手を優しく握りしめた。
「そのように穏やかな顔が見たかった・・・私はずっとあなたを苦しめてばかりだから」
神楽の声に振り向いた葵はその手を振り払うことなく続けた。
「愛する者たちの為に私が苦しむのならいいのです。ですが・・・私の事で苦しむ者がいてはなりません」
意志の強い葵の瞳に引き付けられるように、より一層顔を近づけた神楽は唇が触れそうな距離で囁く。
「・・・あの町医者や連れの娘のことですか?」
怯むことなく葵は続ける。
「そうです」