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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-15

「班長、もう一つ」

 ほぼ、話が終わり掛けた時、再び岡田が訊いた。

「殺害された野村の件を考えると、今まで利用した情報屋の保護をやるべきだと思います」

 確かに岡田の言う通り、我々の行動が筒抜けなら、情報屋の身辺に危険が及ぶはずだ。

 島崎がそう思った時、「そっちは大丈夫だろう」と言う佐野の声がした。

「案件から十一日間に、訊いた情報屋は十人以上。しかし、殺されたのは、偶然目撃した浮浪者の野村一人だけ。
 彼等は自分達の情報が知られそうな場合以外、他の組織と事を構えるつもりは無いと考えていい」

 論理的な判断である。

「班長……」

 佐野は更に続けた。

「──箝口令を敷いた捜査が何時まで持つか解りません。敵も不信に思うでしょう。
 何とか早い段階で、警察内部の敵だけでも炙り出さねば……」
「そうだな」

 彼も又、島崎と同じ考えなのだ。

「うちの戸田に、内調を頼みましょうか?」

 島崎にだけ聞こえる様、佐野が呟いた。
 組織犯罪対策係に、内部調査を依頼する事も一つの解決策で有る。が、それでは知り得る者を増やしてしまい、強いてはマスコミ等への外部流出が懸念され、それは絶対に有ってはならない事だ。

「いや、それは辞めとこう」

 そう答える島崎だが、さりとて代案は無かった。
 思案が混迷を極めていた島崎には、ある男の顔が浮かんでいた。





 島崎以下、他の捜査員が重大な決定を下した頃、鶴岡は一人蚊帳の外で写真係の龍崎に助けを借りて、画像解析に当たっていた。

「何処にも、有りませんね……」

 解析を初めて一時間。龍崎が開発したソフトウェアの威力に度肝を抜いた鶴岡は、当初は簡単に特定出来ると思っていた。
 ところが、何も引っ掛って来ないのだ。龍崎が細かく条件付けを変えても、まるで嘲笑うが如く、その網をすり抜けていた。

「どうなってんだ……」

 鶴岡が、食い入るようにモニターを見詰めて頭を抱えた。

(あの爺さん、嘘を言ったのか……)

 彼の脳裡に、野村の人懐っこそうな顔が浮かんだ。

(いや……あの顔は、嘘を言った顔じゃない。だとしたら)

 鶴岡は考えた。野村の目撃証言の中で、見落としている物は無かったのかと。


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