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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第16話-1

 第16話
「Conquest 〜超克〜」



『……

 RRRRRR!!

 階下で、何度も鳴り響く電話のベルは、まるで悲鳴のように聞こえた。
「………」
 それでも葵は、その受話器を取るために動くことはせず、部屋の片隅に身を埋めて、頭を抱え、電話が鳴り止むのを待ち続けた。

  RRRR… RRRR…

「………」
 ただひたすらに、いたずらに、時が過ぎるのを待つ葵。

 RR…

 やがて、その音も聞こえなくなった。
「………」
 もう、随分と外出をしていない。そもそも、部屋から全く出ていない。スナック菓子の袋と、黄色い液体が満ちたペットボトル、そして、悪臭をひたすら放つビニール袋が、部屋の床の上に散らばっていて、およそ人間の生活している場所とは思えないほどの惨状が広がっていた。
「やっぱり、死のうっと」
 ふと、簡単なことのように葵は呟いて、幾重にも刻んだ十字傷が残る右腕の、最後に残されていた無傷の部分である手首に、ずっと左手に持ち続けていたカッターナイフの刃を押し当てようとした。
「あ、でも、せっかくなら」
 何かいいことを思いついたように、葵が醜く微笑んだ。
 2週間も洗っていない髪の毛は、美しかった頃の原形をとどめないほど強ばっていて、そのよれよれになった前髪が、垢に塗れた目元を覆い隠している。その中で、妖しく光る両目は既に正気を失っており、葵の精神的な錯乱を露わにしていた。
「花火みたいに、なろうっと」
 
 くすくす、ひひひ、うひひひ…

 と、不気味な笑い声をあげながら、葵は2週間ぶりに部屋を出て、そのまま家を後にした。
 両親の離婚と、父親の失踪によって、この家にはもう葵しか残っていない。それにもう、自分も“花火”になって帰ることは無いのだから、1千万という現金が居間に無造作に置かれているにもかかわらず、鍵を閉めることもしないで、ふらふらと葵は、暗くなっている外に出ていた。
「きょうは、はなびがあがりますよー、まっかな、まっかな、はなびですよー」

 くけけ、けけけ、けらけらけら…

 と、何がそんなに可笑しいのか、葵は狂人の様態を見せ続けている。人通りのない路地でなければ、彼女の奇態は間違いなく、通報されていたに違いない。
 やがて葵は、今は無人駅となっているホームに辿り着いた。誰もいないことはよくわかっていたし、これから自分が“花火”になるには、うってつけの場所だということは狂気の中で理解していた。
「うふ、うふふ、ひひひ、うひひひっ……」
 迫り来る自らの人生の終焉を、それでも楽しみにしているかのように葵は狂った笑いを続けている。
「かずや……」
 弟を喪った悲しみは、どうしても癒せなかった。
「やまと……」
 その寂しさを分け合おうとしてくれた男子に、体こそは許しても、心の全てを開ききることが出来ず、結局は煩わしくなって、遠ざけてしまった。
「おかあさん……」
 喧嘩が絶えなくなり、青痣を幾つも作って、母は“離婚届”と葵を置き去りにして、家を出て行った。
「おとうさん……」
 以来、酒びたりになった父に、陵辱を受けそうになって、ビール瓶でその額を殴りつけてしまった。その父が“すまない”というわずか一言の書置きと、現金を居間に残して家から消えたのは、その翌日だった。
 その日から葵は、自分の部屋から全く出なくなり、風呂も、トイレでさえも、行かなくなっていた。
「ごめんなさい」
 眩いライトがホームに向かって、滑り込むように入ろうとしている。
「あは、あははっ、あははははっ、はなび、どかーん!!」
 最後に狂ったような笑い声を上げて、葵はホームから一気に、線路に向かって体を投げ出そうとした。


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