『SWING UP!!』第16話-23
“かがやき町”できらめくネオン看板の真下に並ぶ入口で、葵の手を引いた誠治が、迷いなく吶喊したホテルは、その名も“和風荘”であった。よくある“休憩×××円、宿泊×××円、サービスタイムetc…”の看板は見かけたが、その門扉をくぐった先には、庭園を思わせる飛び石があり、やたら苔むした灯篭があり、とても“ラブホテル”とは思えないような概観が広がっていた。
それでも、中に入れば、ロビーが広がって、部屋の空きを示すパネルがあって、8室ほどあるその中で、3室、ランプが点いているものがあった。
「“2番候補”が空いてる。ついてた」
おそらく事前の下調べは万全なのだろう。落ち着きのない様子の葵を腕にくくりつけたまま、誠治は淀みのない動きで部屋を選び、鍵を受け取って、サービスプランを選択して、“前払い式”になっている料金を支払っていた。
「さ、行こう、葵」
と、葵をエスコートしつつ、選んだ部屋に向かう。エレベーターで2Fに上がり、しばらく歩みを進めてから、“ゆり”という名の部屋にたどり着き、そのまま部屋の住人となった。
「えっ、えっと……」
中に入るなり、葵は呆気にとられていた。
「こ、ここ、“ホテル”ですよね……」
「そうだよ」
「りょ、“旅館”じゃ、ないんですか……?」
「こういう部屋も、あるってこと」
部屋の中は畳敷きの和室になっており、中央がいわゆる“居間”で、その奥が“寝間”そして、“居間”に隣接する形で“浴室”が備えられていた。本当の“旅館”に比べれば、さすがに手狭さは感じるが、清掃や手入れは行き届いているようで、とても清潔な感じのする、落ち着けそうな部屋であった。
「本当は、露天風呂があるっていう“まつ”の方がよかったんだけど、“ゆり”にも豪華な“浴室”があるらしくて、さ」
誠治の後について、その“浴室”を見てみる。
「わあ……」
二人並んで入っても、まだ余裕がありそうなほどに大きく、また、寝そべることができそうなほど浅めの“浴槽”があった。
(お、お風呂の中で、エッチするため、なのかしら……)
浴槽を見た瞬間、葵の頬が茹で上がったのは、そんな妄想に囚われたからである。そしてそれは、外れていない。浴槽の中で存分にまぐわうことのできるスペースがそこにはあるのは、それを目的としているに他ならないのだ。
「え? 露天風呂?」
そういえば誠治は、“まつ”の部屋には“露天風呂”があるといっていた。
「ろ、露天って、まさか……」
「大きな天窓があるらしくてね、星とかキレイに見えるそうなんだ」
「み、み、見られますよ!」
“グー○ル・マップとかに!”と、葵は言いたげな様子である。
ふと、葵は“ゆり”の部屋の浴室の天井を見てみた。ここには天窓がないので、安心して存分に“エッチなこと”ができそうだ。
(って、もう……!)
その気になっている自分に気づき、葵は頬の火照りを冷ますことができなかった。
「今日は葵も、一生懸命投げてくれたから、まずは、ぬるめのお風呂に入って、じっくりのんびりしよう。時間は、充分にある」
もちろん、お風呂に入るのは、“二人で一緒に”である。
「ここは入浴剤もいろいろあってね。葵、好きなのを選んでいいよ」
「は、はい……」
湯加減を確かめつつ、浴槽に湯を張り始めた誠治は、“入浴剤”が10種類ほど小袋で用意されている籠を、葵に指し示していた。