兎の宴 前編-6
「い、いやぁ……こ、こんなところで、ど、どうしよう……」
普段は冷静極まりないツキコが大いに取り乱していた。
何をやるにも明確な解を持っているような彼女が、こればかりは解らずにいる。
彼女とは二度セックスしたが、にも関わらず、俺はツキコの裸をまだ見ていない。
厳密には写メの件で見たが、直接となるとツキコは恥ずかしがってしまうのだ。
行為の時は、布団を被ってしまっている。
見たいと思った。ただ、見てみたい。
俺は立ち上がると、震えるツキコの体を抱きしめて言った。
「俺、ハヤカワさんの、見てみたいんだ」
ツキコはそういう俺をいろんな感情が入り乱れたような、なんとも言えない顔で見つめた。
「い、いやよ……絶対、イヤ。明るいとこで、そんな」
「俺でも、駄目なの?」
「は、恥ずかしい……恥ずかしいの」
ツキコはただ顔を赤くして、羞恥にむせいでいる。
俺はそれでも見たかったが、このあたりが引き時ではないかと思い始めた。
あまり強引にしても、ツキコにとって傷になるような気もした。
それに、俺の腕の中で震えているツキコがどうにもいたたまれない。
「ごめんな、無理なこと言って。俺、最近、調子に乗ってたな」
ツキコとの体験から、かなり急速に彼女との絆が深まっていったように思えていた。
それが、ふと、何か自分の思いあがりではないかと考えてしまう。
熱い気持ちが、不意に冷え込んで、幸か不幸か俺はクールダウン出来てしまった。
ツキコにもそれが伝わったのか、震えは止まっている。
俺は、彼女を抱きしめていた手を解いて、一歩二歩と後退した。
ツキコは、石像のように立ち尽くしたままだ。
しばらくの間、沈黙が流れた。重い、重い、沈黙だった。
随分と早まった真似をしてしまったなと、今さらながら後悔し始めた俺に、ツキコが重い口を開いた。