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二兎追う方法、教えます
【学園物 官能小説】

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兎の宴 前編-12

 我に返ったツキコが、恥ずかしそうに椅子を拭いている。
 自分のエキスをたっぷりまき散らしてしまっていたのだ。そこに座るのは、ヨウコである。

「わたし、とんでもないことしちゃって、サトウさんに悪いわ……」
「俺が悪いんだよ。ハヤカワさんは、俺に言われるとおりにしただけでさ」
「そうよ、タムラ君が悪いん……――また、ハヤカワさんて言った」
「え? それは、あの時だけの話じゃ?」
「わたしのこと名前で呼ぶの、いや?」
「そんなことは、ないけど……ほら、いきなり呼び方変えたらさ、変に思われるだろう?」
「変……か」

 ツキコはそういうと、少し寂しそうな顔をしたかもしれない。
 ヨウコの前で、ツキコを名前で呼んでしまえば、ヨウコはどう思うのだろうか。
 ヨウコはぼんやりしているようで、鋭い感性を持っているのだ。
 
「じゃあさ、二人で帰るときに、なるべく名前で呼ぶように努力するよ」
「努力ぅ? ……政治家みたいね」
「なんだよ、自分だって、俺をタムラ君て言ってるだろう?」
「わたしは、いいの」

 勝手なことをと思ったその時に、正午のチャイムが鳴った。

「やだ、もうこんな時間……!? わたし、もう行かなきゃ。交代の時間だわ」
「え、あ、そうか」
「タムラ君も、午後から演奏があるんだよね? 行けたら、見に行くわ」
「いいよ、みっともないだけで。本当はやりたくはないんだ」
「そんなこと、言わないで」

 ツキコは俺の顔を掴んで、背伸びをしてキスをした。
 ほんの数秒、唇をつけるだけの軽いキス。
 唇を離すと、ツキコは身を翻して背中を向けた。
 
「じゃあ、わたし、行くわ。演奏、頑張って」

 とてもきれいな微笑みを見せて、ツキコは部屋から消えた。
 俺の股間がずくずくと疼いている。
 結局最後までは出来なかったのだ。
 何かモヤモヤしたものが体の奥に残ったが、それでもやる気にはなれた。
 みっともないところを見せるのも、ツキコに悪い。
 後で、少し練習に行ってみようと思った。
 振り返ると、ヨウコの椅子があった。
 先程まで、ツキコが掃除していた椅子だ。ヨウコも見に来てくれるのだろうか。
 俺はその椅子に座りながら、二人の女について思いを馳せていた。



−後編に続く−


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