兎の宴 前編-2
「あっ……タムラ君も、ここに来ちゃったのね」
中でツキコが自分の指定席のパイプ椅子に座って寛いでいた。
つい先程まで、彼女との性交渉について思い返していたところであったので、その当人が中で座っているのを見て、俺は過剰に驚いてしまう。
「何よ、そんなに驚いたりして。この格好、変かしら?」
「えっ……? あ、いや、そんなことは……。そうか、外語科は喫茶店、やってんだったな」
ツキコは着ているものの裾を摘んでみせた。
ツキコはいつもの制服ではなく、メイド服に似せた出で立ちをしていた。
丈の短めな黒のワンピースに白いエプロンを羽織って、足には黒のハイソックスを履いている。頭にはカチューシャを着けてもいた。
事前にそういう服装でやると聞いてはいたが、実際にツキコが着ているのは今はじめて見る。
メイド喫茶などでよくあるフリフリな感じではないが、それでも何か心をくすぐるものがあった。
普段は太ももまでは見せないツキコが、微妙にそこまで見せているのである。
ワンピースからハイソックスの間に見える肌色。いわゆる絶対領域というやつだ。
「ようやく一段落したから、少し休みを貰ったの。やっぱりここが一番落ち着くわね。タムラ君は、午後からだっけ?」
「ああ、そうだな。俺はやりたくないんだけどな」
「いいじゃない。タムラ君がバンドなんて意外だけど。わたし、見に行くから」
「無理やり数合わせに付き合わされただけだよ。本当に参ってるんだ」
生徒は何かしらの催しに全員参加である。
俺は音楽を齧っているという男子に付き合わされて、コピーバンドのドラムを練習させられていた。
ヨウコと違い芸術的な才能のない俺は御免被りたい活動だったが、嫌とは言えなかったのだ。
仮にも俺が文化祭を主導する立場にいたからだ。
生徒数が少ない学校であるから、バンドメンバーを集めるのはかなり苦労する。
かといって、そういう出し物が皆無なのも寂しかった。
そういった事情から、これっきりという条件で不承不承参加することになった俺だった。
昼休みや放課後などの合間を縫って練習はしたが、正直言って上手くやる自信はない。
疲れているのも、これがためで、今現在も憂鬱であった。
今のツキコの姿は、そんな俺にとってのいくらかの癒しかもしれない。