今宵、変化の夜に-1
「何これぇ〜〜〜!?」
台所から、かわいい俺のルゥが素っ頓狂な声を出している。
「・・・どうした?ルゥ。」
台所にひょこっと顔を出した俺が見たのは・・・。
ルゥのあり得ない姿だった。
「ロウ〜・・・。」
半泣きになっているルゥが俺を見上げる。
「ルゥ・・・って吸血鬼、だったよな?」
そう、だからこの間の夜だって満月になったお陰で女になってしまった俺の血をたらふく飲んだ筈だ。
「私、ロウと同じウルフになっちゃったぁ・・・。」
お尻に生えている大きな尻尾を掴みながらふるふるとしている。
・・・いや、確かに俺はウルフだが、尻尾は生えないから。・・・それに多分本人まだ気付いてなさそうだけど、尻尾だけでなく耳も付いてるぞ。
ルゥは自分を「ウルフになった。」と言っているが、その姿はどうみても犬っぽい。
・・・かわいい。
本気でそう思ったが、今言ったら怒られそうなので止めておこう。
「・・・で、これは一体どうしたんだ?」
よしよし、と頭を撫でる。
すると、気持ち良さそうに耳が垂れ尻尾を揺ら揺らさせて
「あのね、冷蔵庫にあった赤いジュースを飲んだら体がジワジワして尻尾が生えて・・・。」
赤いジュース・・・。
それは俺が働いている病院の試薬品で・・・。
どうやらルゥには合わなかったみたいだな。
頭の中でこの薬は吸血鬼に×、とインプットさせ、はぁ・・・と溜め息を吐く。
「・・・勝手に何でも飲んではだめだろう。」
薬を自宅に持ち込んで冷蔵庫なんてとこに入れておいた俺が悪いのだけど。
「ごめんなさい・・・。」
しゅん、とルゥの耳と尻尾が垂れ下がる。
まるで今にも「きゅ〜ん」と鳴きそうだ。
思わずぎゅっとルゥを抱きしめる。
「ちょ・・・っ、何する・・・っ、離してよ!」
突然の行動に困惑した表情をしているが
「俺に抱きしめられて嬉しいの?」
尻尾はぐるぐると嬉しそうに回っていた。
「そんな訳、ないでしょ!」
頬を膨らませ俺を睨むが、やはり尻尾はくるくる。
本人は素直じゃないけど体は素直だな。
そんなところさえ愛しい。
自然と笑みがこぼれる。
「ああぁ・・・どうしよう、これ・・・。」
自分の尻尾を握り締め、本気で悩みだした。
耳を垂れさせ不安げな子犬をこのまま見ていたいのは山々だが、このままでいさせるわけにはいかない。
「解毒剤、探してくるよ。」
人間の病院と違い、いろいろな種族を扱う俺の病院では今回みたいに変な作用が出てしまうことが稀ではない。
そのため、薬の開発と同時に解毒剤も準備してある。
・・・確か、部屋に置いてあるはず。
そう思い、部屋に取りに行こうとするとルゥがぴん、と耳を立たせ尻尾を振り
「ありがとう!ロウ!」
と期待に溢れた満面の笑顔を見せた。
・・・なんか、勿体無いけどな。