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今宵、満月の夜に
【その他 官能小説】

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今宵、満月の夜に-1

「うぅっ・・・お腹空いたよぉ。」
人気の少ないベンチに座り、一人呟く。
「どうしたの〜?彼女、一人?」
軽薄そうな男が馴れ馴れしく声を掛けてくる。
・・・男に用はないんだよね。
「名前、何ていうの〜?」
こっちが何も言わないのをいいことにべらべら話し掛けてくる。
・・・男でも今日は我慢するか?
すっと立ち上がり、目の前の男の肩に手を回す。
そしてそのまま首筋に消毒代わりのキスを落とし「かぷり」と噛み付く。
男が何か言おうとしてそのまま固まった。

「・・・まずっ。」
せっかくの食料だったけど、これは余りにひどい。
「な・・・おまっ!何・・・?」
口角から滴る自分の血を見て、顔面蒼白している。
じぃっと男の瞳を見つめ、催眠術をかけ記憶を消す。
途端に、男は何事も無かったように踵を返し公園を後にした。

再びベンチに座り、溜め息を吐く。
今宵は満月が綺麗・・・。
満月のせいかな?こんなに血を欲するのは。なんか胸がざわつくんだよね。

私の名前はルゥ。歳は・・・忘れた。先ほどの行動で分かると思うけど、吸血鬼だ。
とはいえ純血ではなく、結構他の血も混じっている・・・と思う。
いわゆる吸血鬼の王道と言われるニンニクや十字架、日光は大丈夫。こうもりに変身することもないし空だって飛べない。普段は牙だって隠れている。見た目はなんら人間と変わりはない。
ただ・・・催眠術をかけるのが得意で、寿命が長くちょっとやそっとじゃ死ぬことがない。後は、たまに血が欲しくなるかな。
血はやはり、女の血が美味しいわけで。
ましてや処女だったりすると最高なのだけど。
・・・最近の女はインスタントやいろいろな化学調味料が入った食事を取ることが多いわ、煙草や酒を好むわ、処女率が減っているわで吸血鬼には住みにくい世の中になっている。
本当に最近の女は・・・。
再び溜め息を吐く。

その時だった。
ふわり、と風に乗っていい香りが鼻を擽る。
間違いない、汚れのない処女の血・・・極上の血の匂い。
吸い寄せられるように香りの源を見る。
女の自分が見蕩れてしまうほどの容姿。
少しきつめの瞳にすっと通った鼻筋。薄い唇。

「こんばんは。」
話かけようとしたら、先に女の方から声を掛けてきた。
これは好都合、と、じ・・・っと女の瞳を見つめる。
いつものように催眠術をかけて、食事にありつこうと試みる。
お互い目を反らすことなく暫く見詰め合う。

・・・おかしい、催眠術にかからない。
それどころか、自分の体がふわふわとしてくる。
この極上の血の匂いのせいだろうか?
やばい、この人に近寄ってはいけない。
頭では警告を発しているのに、体がいうことを効かない。
「・・・お腹、空いてるの?」
女に問われ、無意識に頷く。
「名前は?」
「・・・ルゥ。」
教える必要もないのに、勝手に口が開く。
「おいで、ルゥ・・・。」
まるでこっちが催眠術にかけられたかのように、ふらふらとおんなの胸元に寄りかかる。
そして、少し背伸びをして首筋に吸い付いた。
余りの空腹感に我を忘れて血を求める。
ましてやそれが極上。
久しぶりの満足感にそのまま意識を手放した。


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