Portrait-9
(・・・少し意外だったわ)
画家のことに意識を巡らせていくと、どうしてもかつて身体を重ねた場面が脳裏を掠める。
心のどこかに画家との再会を喜んでいる自分がいることに戸惑いつつ、
表面上は平静を装った姿勢を崩していない。
(それにしても、この香り・・・・・)
セリスは思わず部屋の中を見渡す。
この美術室に入ってからずっと感じている、今まで嗅いだことのない独特の香り。
広い空間一杯に漂う香りをずっと吸っていると、
なぜか身体の奥底が熱くなり
白い肌にやや赤みが浮かび上がる。
(何だか力が・・・・)
額に手をやると、微かに汗が滲んできていた。
「・・・ご気分が優れないのですか?セリス様」
気づけば前を進んでいた画家がセリスの傍らにぴったり寄り添うようにして立っている。
やや上体が傾けた姿勢のセリスを上から見下ろす格好になる。
気のせいか、
その目元には心なしか笑みが浮かんでいる。
「だ、大丈夫よ。少し身体がだるいだけだから・・・・・」
男の身体が自分の身体にぴったりと密着していることに絶えられず、
無意識に右手で相手の上体を押しのけようとするが、
逆にその手を相手に握られてしまう。
「無理をしてはいけません。さ、奥に休息室がありますから そちらへ・・・」
気づけば画家の左手がセリスの腰に回され、まさに抱き抱えられるような格好になった。