投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 907 『STRIKE!!』 909 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』第15話-28


「アウト!!! チェンジ!」
 8番の結花は、“納豆打者”よろしくフルカウントまで粘りはしたものの、結局は平凡な内野フライに倒れた。やや差し込まれた感じのするスイングになっているのは、能面の角度にアジャストしきれなかったことを表している。
 結花の身長は、双葉大の中でも一番小さいので、能面に対して見上げる形になっていたから、尚更であった。
(ノーヒットなのに、1点取られてしまった…)
 しかし、捕手の梧城寺 響は、わずか1点ではあるが、それがいやに重いものに感じていた。
 隼人のマウンドを引き継いだ能面は、これが先発デビューであるが、まずまずの投球をしている。実際、許した安打は初回の3番打者だけである。

【双葉大】|01 |   |   |1|
【法泉大】|0  |   |   |0|

「………」
 それにも関わらず、スコアボードには先制を許した結果が点っている。5番の草薙大和に対して、際どいところを要求した結果、四球を与えてしまったが、それが失点に繋がったことは、自分のミス・リードを思わずにはいられなかった。
 逆に言えば、ひとつのミスも逃さずに突いてくる相手チームの自力の強さを、認識させられた。分かっていたことだが、双葉大学は強いチームなのだ。
(取り返さないと…)
 この回の先頭打者は、4番の響である。代名詞というべき“長尺バット”を手にして、打席に入った響は、定位置で既に腰を下ろしている蓬莱桜子と目があったので、軽く会釈をした。
「!」
 マスクの下で、桜子が微笑んだ。瞬間、何か包容力のあるオーラを感じて、響は思わず息を飲んでしまった。
(な、なんだろう。桜子さん、なにか、大きくなったような……)
 前期の対戦時にも感じたその“包容力”が、更に洗練されたもののように響には感じられた。
「プレイ!」
 響は、“呑まれてしまった”ような雰囲気のまま、打席に入っている。
「ストライク!」
 内角高めに浮き上がってきた初球に、思わず手が出て空振りしてしまったのは、いささか集中力を欠いていた証左であった。
(“あの球”は、わたしにはボール球になるって、わかってたのに……)
 伸び上がってくる“剛速球(スパイラル・ストライク)”の見極めは、“最高の投手”と称されるようになった右腕・草薙大和を攻略する上で欠かせない。この球を敢えて狙うか、諦めて捨てるか、その思い切りが必要になってくる。
「ストライク!!」
 なぜなら、伸び上がってくる球筋とは真逆というべき“スライドして沈む球(スパイラル・ラビット)”があるからだ。
(くっ……)
 二球目に投じられたそれを、響はやはり空振りしてしまっていた。全く同じ腕の振りで投じられるそれは、しかも、途中までは同じ球筋なので、よほどの集中力がなければ見極めは難しい。
「………」
 前の試合では、自分の体格に対して、ストライク・ゾーンの把握に苦慮していた様子があったが、今はそれがない。マウンド上の草薙大和は、蓬莱桜子の出すサインに全ての信服をおき、自分の投球に集中しているように見える。 
 響は、バッテリーが醸し出しているオーラに、呑まれてしまっていた。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 内角低めの厳しいところを攻めてきたストレートに、手が出なかった。“見逃し三振”という、明らかに勢いを萎ませてしまう結果となったこの打席は、響の完敗であった。
(なにをしているの、わたしは……)
 響は、隼人がいなくなったチームの中にあって、中核としての重みを背負うことにもなっている。それが、いささか響にとって、余裕の無さを与えていることは否めない。
「大和、ナイスピッチ!」
 かたや、勢いのあるボールをマウンドの草薙大和に返した桜子は、何か躍動するような勢いがある。
 それがこの打席の、ひいては、この試合の決定的な“差”となって、結果として顕れることになった…。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 907 『STRIKE!!』 909 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前