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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第15話-27

「アウト!」
 そうなれば吉川のするべきことは、ひとつである。今度はベンチから出た“送りバント”のサインを、彼はきっちりとこなして、大和を三塁まで進めることに成功した。
(確かに、ボールは見えるかな)
 クセ球というべき能面の“ムービング・ファストボール”に対して、その球筋に惑わされることなくバントを成功させた吉川には、前期に対戦した、天狼院隼人のそれよりも、ストレートの軌道がしっかりと見えていた。
「Good job!」
 ベンチでエレナが、吉川の“仕事”に、ウィンクを交えて賛辞を送っていた。観客席の方でも、恋人である吉川を応援するために、わざわざ法泉市まで来た須野原詠子が、その手を打ち鳴らしていた。
 その吉川と入れ替わりに、7番の浦が打席に入る。前の試合から転向した左打席に立った浦は、その試合と同じように、“居合い”の構えを取った。
「ストライク!」
 その内角を突くストレートが、初球に投じられる。左投手の場合に“背負う”形になるのとは違って、正面から“迎える”形で対面している浦は、前の試合に比べて、ボールが追いかけやすいと感じた。
「ボール!」
 だから、外角にシュートして外れたボールも、自信を持って見送ることが出来た。
「………」
 スクイズのサインは出ていない。自分が左打席に入っており、また、能面の“ムービング・ファストボール”の特性上、リスクの高い作戦であることは、浦もわかる。
 この打席で心がけるべきことは、内野フライを挙げないことと、何が何でも前に転がすことだ。
「!」
 内角に来たストレートが、シュート回転をして真ん中寄りに入ってくる。それを見た浦は、鞘から刀を抜き出すイメージで、バットを一閃した。

 キンッ…

 と、バットにボールが当たる手触りが響いた瞬間、その打球を視線で追うことも無く、浦は一塁へと駆け出す。ボールがバットに当たった後は、とにかくその俊足で、一塁ベースを駆け抜けることだけを、浦は考えている。
 そして、大和もまた、浦のスイングがボールを捉え、内野に転がった瞬間には、躊躇いも無くホームに向けてダッシュをかけていた。
 手振りのため、鈍い当たりのゴロが一二塁間に転がっている。前進守備を敷いていた法泉印大の野手陣だったが、一塁手の仙石がそのボールを掴んだ時は、既に大和はスライディングによって、ホームベースをすべり抜けていた。
「アウト!」
 俊足を飛ばしていた浦であったが、判断良くホームでのアウトを諦めた仙石の素早い打球処理によって、わずかに及ばずアウトになった。それでも彼は、打点をひとつ、稼いだことになった。それは、貴重な“先制点”でもある。
「浦、よくやった!」
 それをわかっている一塁コーチャーの若狭が、彼に対しては恒例となっている臀部への軽い一撃を与えていた。
「あ、ありがとうございます」
 エレナのウィンクよりも、それは浦にとって、非常に嬉しい“ごほうび”なのであった。


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