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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第15話-2


“大学を今年限りで中退し、独立野球リーグの選抜試験(トライアウト)に挑戦する”

 大和の“決意”は、まず、母の和恵に対して打ち明けられた。和恵は今、秘書を務めている中堅企業の女社長たちと共に、海外共同事業のプロジェクト・チームに参加しているので、国内にいない。故に、国際電話を使ってのやりとりとなった。
『大和が決断したのなら、私はそれに口出しをしないし、あなたのチャレンジを応援するわ。……でも、ひとつだけ』
 少しの沈黙を置いてから、和恵は言葉を繋げた。
『あなたを支えてくれた人たちに、しっかりとケジメをつけるのよ』
 仲間たちに対して、そして、何よりも桜子に対して…。和恵は、それができず、後ろ髪を引かれながらチャレンジをしても、絶対に成功することはない、と、そう付け加えた。
『ありがとう、母さん』
『……がんばってね』
『ああ』
 大和の声に、揺らぎはなかった。電話越しながら、それを確認した和恵は、全てのケジメをつけることに対して、大和が充分に覚悟を持っていることを理解できたようだ。
『監督、キャプテン。大事な、お話があります』
 次に、監督のエレナと、チームのキャプテンである雄太に、それは告げられた。チームの皆に説明をする前に、まずは“指導者”たちに話を通しておくことは、物事の筋道である。
『ヤマト、それが、youの選んだ“myroad”なのですね』
『桜子は、それを知ってるんだな?』
 それぞれの第一声である。
 エレナは、来季からエースがいなくなることを監督として認識しなければいけなかったし、雄太は、大和が今年限りで大学を去ることになって、一番の影響を受けるであろう桜子に対する心配が、それぞれ顔を出したのだ。
 ただし、二人に共通して言えるのは、大和の決意を、支持する想いを持っていたということだ。
(ヤマトは、more greatな“stage”でハバタケルひとです)
(もっとすげえことが、絶対にできるやつだ)
 投手として蘇り、快投を続ける大和を見て、そのように思っていた。
 大和が現状に満足しているのであれば、それでよかったのかもしれないが、更に高みを目指す意識が芽生えたのであれば、こころよく送り出し、そして、応援しなければならないとも…。
 そう思わせるほどの魅力を、大和の投げる姿に感じていたのである。
「僕の決めたことは、みんなに背を向ける行為で、“裏切り者”だと思われて当然です。だけど、どうしても、“チャレンジしたい気持ち”を、抑えられなくなったんです」
 最後に、ミーティングの中で、チームのメンバーたちに向けて、大和は自ら、決意を語った。
 それが語られてから、しばらくの間、部室が沈黙を支配したのは、無理のないところである。そして、全員の視線が、桜子に向いていたことも…。
「………」
 それを受け止めた桜子は、笑顔になった。最愛のパートナーである大和と、離れ離れになると言う悲壮を全く感じさせない、いつものままに陽気な笑顔であった。
 …いや。
 大和の決意を受け止めたことで、いつも以上に包容力を持った、眩く明るく温かな光を感じられる笑顔であった。
「あたしは、もっと高く昇っていく、大和を見たいんです」
 桜子の言葉には、彼を引きとめようとする“淀み”は全くなかった。その覚悟の裏に、どれほどの葛藤があったかを全く感じさせない、ありとあらゆるものを受け入れて、そして、彼を押し上げようという、一途な決意に満ち満ちたものだった。
「「「………」」」
 そんな桜子の表情が、チームの総意になったといって、過言ではなかった。
「後期の5試合。色々な想いがあると思う。それを、めいっぱいぶつけてやろうぜ!」
「「「応!!」」
 雄太の発破に、力強い反応を見せた部員たち。
「この素晴らしいメンバーで、試合をできることは、とてもステキなことです。たっぷりと、こころゆくまで、enjoyしましょう!」
「「「Sir!!」」」
 エレナの言葉に、引き締まった笑顔で応えるメンバーたち。
(………)
 大和の頬には、一滴、光るものが伝っていた。自分が今まで、どれだけ恵まれていた状況で野球が出来ていたかを再認識して、胸が熱くなったからだ。
「大和」
「……ありがとう」
 桜子がそっと差し出したハンドタオルを使って、大和は目元を拭った。
「………」
 その、“決意の涙”をしみこませたハンドタオルを、大和から改めて受け取ると、桜子は、とても大事なものを託されたように、それを胸に抱き締めていた。


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