デネブの館-10
しかし、重大な問題があった。
正直、俺はもっとアイの体が欲しかったが、生活時間帯が合わないのである。
俺は朝から夕方、アイは夕方から夜中が仕事の時間帯なので、まるで咬み合わない。
時間帯は変えられないのか聞いたが、占いのお客は夕方以降が多いのだという。
多いと言っても、彼女の場合、一日に一人か二人客が来るのが関の山なのだが――
俺は他のバイトなり、仕事なり探したほうがいいんじゃないかとも言ったが、頑としてそれには応じなかった。
唯一応じたのは、日曜は休むということだ。
日曜も客は多いらしいから、本当は彼女は店を出したいのだが、そこは俺に譲歩した。
なので、アイに会えるのは、朝と日曜日だけである。
セックスのチャンスも日曜だけである。
だから、その日曜に仕事に呼び出されるというのは、俺にとっては悲劇なのだ。
職場から俺を呼び出した上司の用事は実にくだらないものだった。
使っていたパソコンが動かなくなったというのだ。
こんなのは再起動するだけだろうと思ったが、案の定その通りで、パソコンは動き出した。
上司は屈託なくいやあよかった、などと笑っている。
俺は顔で笑って心で泣いていた。
一週間経った。
アイの今週の収入は一万二千円だったようだ。なんともリアルな数字である。
四倍すると五万に届かない。様々なことを考えた場合に、これで生きていくというのはやはりキツいだろう。
しかし、アイはそれでもめげなかった。
今日は機嫌がいいのか、彼女にとっては貴重なアロマオイルを炊いていた。
甘い木の香りとでも言えばいいのか、デネブの部屋は妖しい香りに満ち満ちている。
サンダルウッドというらしいのだが、ほんの小さな小瓶に入った液体が六千円するのだそうだ。
彼女の今週の収入の半分である。俺は、一つ溜息をついた。