想いを言葉にかえられなくても《冬の旅‐春の夢》-15
「…はい。もちろんですよ」
春風が、一歩を踏み出した私を祝福している様だった。
………………
あの後、高橋宅で話は盛り上がった。父は私と同じ、篭崎龍奏の隠れファンでサインで、知り合った話をしたら自分も行きたかったと本音を漏らしていた。
同棲はもちろん反対も無く、妹もあまりの驚きに『どうして、おねぇちゃんなんかと!?』と繰り返していた。本当に正直なんだから…
母は上機嫌で『格好良くって今話題の作家なんて…』と惚れ惚れしていた。
「結婚は、お互いに落ち着いたら考えようと思っています。」
ちょっと照れくさいけど、幸せそうに語る龍二が新鮮だった。
………………
―ピロリロリン♪
『sub:結婚おめでとう!
大学卒業してすぐなんて本当に紫乃らしいね♪
そうそう、杏樹も2歳になったんだよ。家族三人で式に出席するからね。
前に言ってた祝辞だけど、やっぱ苦手だから代わりに…山形先生のサックスと私のフルート、恭介のピアノで即興演奏しようよ!結婚式でそう言うのも楽しいと思わない?
ふふふっ、恭介なんかピアノ、毎日練習してるのよ。太鼓ばっかり叩いているから…忘れちゃったみたい。
じゃ、紫乃。楽しみしてるね』
春風舞う、そんな暖かい日。きっかけから四年。
今日も二人でいつものカウンターテーブルに並び、ほろ苦い珈琲を飲む。キスもほろ苦い。きっと、これは何時まで経っても変わらない。…そんな毎日を、過ごして行くに違いない。
終わり