王の奪還V-1
「・・・一体何が起きてるんだ?」
目の前には葵の名を名乗る人間の女がいて、蒼牙が求めている当の葵の気配は感じられない。焦りが次第に色濃くなり、蒼牙は意を決したように大和の腕をひいて走り出した。
いきなり腕をひいて駆けだした蒼牙に大和が慌てる。
「お、おいっ!!蒼牙どこへ・・・」
前を向いたまま蒼牙は口を開いた。
「お前も聞いただろ!!葵の偽者だ・・・!!」
「・・・そんな、なぜ・・・」
大和は信じられないといったように口をつぐんだ。
「理由なんかわかるわけねーだろ・・・!!」
(何で葵の気配がないんだ・・・何か関係あるのか?・・・ゼンのおっさん何やってんだよ・・っ!!!)
人通りの少ない建物の影に二人は身をひそめると、蒼牙は考えるように爪をかんだ。
「・・・あまりにも情報が足りなさすぎる」
「九条と仙水の耳に入れなくていいのか?」
一番やっかいなのは単独で行動したのちに、何も知らされていない彼らと鉢合わせすることだ。九条はもとより、最近の仙水の感情の起伏もあやうい。
「あいつらに知らせてどうなる・・・
民を傷つけない保障がどこにあるってんだよ!!」
「・・・っ!!」
心当たりがあり過ぎる大和はやりきれない思いを胸に強く拳を握りしめた。
「・・・誰かくる」
大和が声をひそめると、建物を背に姿を隠した。暗がりに目を凝らしていると・・・
「馬・・・?」
爽快な蹄の音を響かせ、誰かが手綱を握っているのが見えた。
「あ、あいつ・・・っ!!」
蒼牙は勢いよく飛び出し、馬の目の前に飛び込んだ。
ヒヒーーンッ!!!
驚いたように馬が叫び、背に乗る秀悠が勢いよく振り落された。
「うわぁああああっ!!!!」
「・・・おっと!!」
見事な素早さで馬の後ろへと回った蒼牙は振り落された秀悠の身が地に着く前に彼を抱きとめた。
馬の扱いに覚えのある大和は、驚きうろたえる馬を優しくなだめている。
「あなたは・・・」
ぎゅっと目を閉じた秀悠は目をあけるなりその姿を確認して驚いている。
「葵さんの・・・」