王の奪還U-1
小部屋の中、葵は手元をじっと見つめていた。攫われた曄子、安全な場所へと飛ばした秀悠・・・城に残っている神官たち、そしてまもなく戻ってくるであろうゼン。
葵が秀悠の家にいないとわかったらゼンは自分を探すのではないか?神官たちがそれを知ったらゼンを責めたりはしないだろうか?色々なことが頭をよぎるが、今は曄子を盾にとられている以上・・・神楽に従うしかなかった。
ガチャ、と扉があいて神楽が飲み物を手に入ってきた。
「葵様・・・貴方をこのような狭い部屋に閉じ込めるのは心苦しいですが、もうしばらくお待ちください」
「・・・私は大丈夫です」
部屋に似合わず、上等なベッドとソファが置かれ、くつろぐには十分すぎるほどだった。
「私は逃げませんから・・・どうぞおやすみになってください」
「・・・・」
神楽は黙ったまま葵の隣に腰をおろす。座っていたソファが神楽の重みを受けて葵の体を揺らした。
「私は・・・貴方に逢えた興奮でしばらく眠れそうにないです。いえ、眠るのが惜しいというのが正しいのかもしれません・・・」
膝の上にのせた葵の手を握りしめると、神楽は葵の肩口に顔を埋めた。
「・・・・っ」
心地悪さに身をよじる葵の唇はかたく結ばれ、眉間に皺が寄る。
神楽の長い髪が葵の肩をさらりとなでて嫌な汗が彼女の背を流れた―――・・・
――――――・・・・
あやしく動く二つの影が窓から懸命に中を覗き、一際目立つ豪華な衣装を身にまとった女性の姿をとらえた。
「なんだあれ」
蒼牙が不思議そうに首を傾げていると、大和がその背から顔を出した。
「・・・この村の客人か何かか?」
小声で話していると、背後から明るい声がかかった。
「おっ!!
兄ちゃんたちも女王陛下に会いたくてきたのかい?」
ドキリとした蒼牙と大和が振り返ると、果物や酒を両手に抱えた中年の男が笑顔をむけていた。
「女王陛下とはまさか・・・・」
大和が驚いたように硬直していると、
「ん?もう中見たんだろ?あそこにいる神々しいお方が葵様だ」
蒼牙が再度窓へ目を向けると、やはり葵の姿はない。