王の奪還T-1
「あ、あの・・・っ!!
ここはどこですか!?急いで家に戻らなくてはいけないんですっっ!!」
「じ、事情はわからないが・・・俺の馬を貸そう!!こっちだ!!」
小柄で太めの、人のよさそうな中年男性は慌てた様子の秀悠を連れて急いで家へと戻った。
酒でも飲んできたのだろうか?
男からはわずかだが、アルコールの匂いがした。
話を聞けば、秀悠の住む町の森を抜けたさらに隣村。人の足で帰るとなれば、人の時間でいう2〜3時間を要してしまう。森を抜けるのも無事で済むかわからないのだ。
馬に乗り慣れていない秀悠の前に、毛並の良い見事な雄馬が手綱をひかれて蹄の音を響かせる。
「ブルル・・・」
「・・・眠っていたんだね、申し訳ないが私を乗せて走ってくれるかい?」
優しげな瞳は秀悠を見つめている。
やがて、背にのせることを承諾したように彼は秀悠の胸に顔を摺り寄せた。
「お、こいつもあんたが気に入ったようだな!!他の馬より体力もあるし、獣の出る夜の森を駆け抜ける度胸もある馬だから安心していけ!!」
「すみません、大切なこの子お借りします!!」
頼んだよ、と馬の顔を優しくなでると前足で土を蹴り『任せろ!!』とばかりに雄馬は鼻息を荒くした。
秀悠が彼の背に乗ると、馬は勢いよく駆けだした。
「颯(はやて)!!無事あんちゃんを送り届けてくれよ!!!」
遠くに聞こえる馬主の声を耳にして、
「そうか、お前は颯っていうのか・・・よろしくな!!」
秀悠の声が聞こえたかどうかはわからないが、颯の地を蹴る足に力がこもりさらに速度は加速してゆく。
(葵さん待っていてください・・・
必ず助けてみせますから!!)
秀悠は握る手綱に力をこめた。そしてその瞳の先には優しく微笑む葵の幻があった・・・