雨模様(1)-5
予想していたことではあったが、生徒会の仕事は何もなかった。担任は裏方の仕事はいくらでもあると言っていたが、実際はそうではない。集まりがあれば顔を出すけれど、役割がないので発言する機会も指示されることもない。何とも居心地の悪いものであった。
一年生ならともかく、三年の立場で何もすることがないのは苦痛である。
たぶんそんな状況が耳にはいったのか、担任が改めて文化祭の実行委員の話を持ってきた。
「君は一年の時に経験してるよね」
生徒会に籍を置いたまま委員会の活動をしてはどうかと言ってきたのである。
私は救われたと思った。うがった見方をすれば生徒会の連中が邪魔者扱いをしたのかもしれない。彼らだって困っていたのだろう。でもそんなことはどうでもよかった。文化祭の方がまだ自由がある。解放された気持ちであった。
休みの日に私は一人で盛り場をうろついた。これといった目的、決意があったわけではない。そうかといって、ただ暇つぶしにわざわざ出かけたのでもない。心のどこかで『何か』を期待し、求めていたのはまちがいない。
西田のようにナンパすることも出来ず、いかがわしい店に入る勇気もない。人ごみの中をあてもなく歩いた。ポケットの中には使わずにとっておいた一万三千円が入っていた。
上野ではミチとクミの体をまさぐった場所を探してみた。どこの樹の根元だったのか。特定は出来なかった。彼女たちのにおいが甦ってきた。
池袋では胡散臭い男にいい店があると腕を引っ張って誘われた。覗いてみたい世界だが、怖くなって走って逃げた。
下校時、ふと心の中に空虚な風を感じることがあった。グラウンドを走って汗を流す学友の姿。合唱部の発声練習はいつも決まった時間に始まる。体育館からはボールの弾む音が響いてくる。帰る道には交際中らしい二人……。
あと半年あまりで卒業である。自分は高校で何をしたのだろうと思う。何かクラブ活動をすればよかった。思い切り体を使い、あるいは何かに没頭すればよかった。そうすればなにかしら得られるものがあったのではないか。……後悔と虚しさが過る時、三原恵子の手紙が水面に流れるように脳裏に浮かんでくる。
『有意義な高校生活……』
有意義な高校生活……。今の私にはとても重苦しく感じる言葉であった。
大学進学希望者と就職組との間には目に見えない障壁が出来ていた。就職試験の多くは夏休みに終わっている。受験はこれからが急峻な登りである。特に一般入試の生徒にとっては追い込みの時期であった。就職が決まって授業さえ真面目に受けない者とは自然と相容れない立場になる。私は推薦入試だったので緊張感のない毎日を送っていたが、それでも交友関係は微妙に変化があった。
(こうしてそれぞれ違った道を歩いていくんだ……)
一抹の感傷が時に胸を去来した。そうして日に日に卒業が近づいてくるのに満ち足りたものは何もなかった。