Betula grossa〜出逢い〜-30
純兄ちゃんの神楽は神社の隣の舞台で行われる。私達は一番前で見る事になった。その夜は雪は降っていなかったが寒さは半端でなかった。舞台は三方が壁に囲まれていたが私達がいる方が開いているので純兄ちゃんの寒さは私達より厳しいだろう。
開始時間が迫ってくるにつれてたくさんの人が集まって来た。
シャン、シャン、シャン、鈴の音と一緒に純兄ちゃんが現れて神楽が始まった。舞師だったという純姫様のように優雅に舞う純兄ちゃんを見ていると、本当に純兄ちゃんは男なの?そう思わせるほど女の子らしかった。私にはわからないが舞そのものの技術はまだまだなのかもしれないが、純兄ちゃんの舞に引き込まれていった。それは私だけでなくその場所にいた人みんな一緒だった。
やがて場面は蛇の化け物との戦いに移った。純兄ちゃんは元々ボクシングをやっていたので、戦いの場面ではキレがあり格好良かった。しかし、どこか女性らしい儚さも漂わせていたので男には見えなかった。
そして最後の場面....慈愛の微笑みを浮かべて帰っていく場面では涙ぐんでしまった。それは私だけでなく美菜お姉ちゃんも一緒だった。純姫様の伝説に親しんでいない私達でさえもそうなのだから、この村の人達もまた涙ぐんでいた。
純兄ちゃんの神楽が終わってすぐに拍手が起こった。
神楽が終わって純兄ちゃんが出てくると
「ありがとうございます!久しぶり見させてもらいました!純姫様が本当に現れたみたいでしたよ!」
そう口々に言いながら純兄ちゃんに寄って行った。純兄ちゃんは戸惑いながらも笑顔で応対していた。
それから純兄ちゃんは神殿に入って、神事を次々とこなしていった。全ての神事が終わったのは2時を回っていた。
「お疲れ様..寒かったでしょう?こっちに来て温まって!」
戻って来た純兄ちゃんに明美さんがストーブの近くに来るように促した。
「これ....もう明けちゃったけど....年越しそば....体が温まるから食べて!」
「ありがとうございます!」
純兄ちゃんは純姫様の姿でそばを啜っていた。
「そばを食べ終わったらメイクを落としてやるから!」
香澄さんが声をかけると
「はいお願いします!」
純兄ちゃんはそう答えていた。
香澄さんはメイクを落とし終わると
「風呂に入ってゆっくり温まって来い!」
そう言って純兄ちゃんの背中を叩いた。
「それじゃあ..お言葉に甘えて....」
純兄ちゃんが風呂に行こうとすると
「後で私も入るから!背中を流してやるよ!」
香澄さんがそう言うと
「えっ?」
純兄ちゃんが固まってしまった。
「あっ!私も入るから!」
お姉ちゃんが言ったので
「お姉ちゃんが入るなら私も一緒に入る!」
私が思わず口にすると
「いい加減にして下さい!香澄さんや梓さんが調子に乗ってるから笑美ちゃんまで....」
「別に気にする事ないでしょう!女同士一緒に入りましょう!」
「姫川さんまで変な事言わないでよ!俺は男です!」
純兄ちゃんは逃げるように風呂に向かった。
「さて....私達もお風呂に入ろうか?」
香澄さんがそう言ったので
「それじゃあ準備して来るね!」
私達が立ち上がると
「ちょっとあなた達....今葛城君が....」
明美さんが止めに入った。
「大丈夫!水着持って来てるから!」
香澄さんがそう言うと
「えっ?」
明美さんが不思議そうな顔をした。
「本当は混浴の露天温泉に入るために持って来たんだけどね!」
香澄さんの言う通り私達は水着を持って来ていた。神社の近くに混浴の露天温泉があって、そこは水着を着て入っても良いと聞いていたからだ。
「あなた達はそれで良くても葛城君は....」
明美さんは止めようとしたが
「昨日、私達の裸を見たんだ!これでアイコだよ!」
香澄さんはそう言って笑った。