Betula grossa〜出逢い〜-23
「えっ?今から帰るの?明日にすれば?」
「今からだと夜中になるから少しは帰省ラッシュも解消されるだろうから....」
「兄貴!車を運転して来たばかりなんだから明日にしたら?事故でも起こすと....」
「昂さんは車で帰るんですか?」
「そうだけど?」
「じゃあ俺も連れて行ってくれませんか?そうすれば明日一日神楽の稽古出来ますから!」
「えっ!?」
二人は驚いたような顔をした。
「やると決めた以上少しでも良いモノにしたいですから!」
「じゃあ一緒に行こうか?」
「ハイ!お願いします!」
俺は頭を下げた。
「スミマセンが着替えを取って来ますので少し待っててもらえますか?」
「それなら俺が葛城君の家まで送るよ!その方が早いだろ!」
昂さんがそう言ってくれたので、送ってもらう事にした。
マンションに着くと、急いで着替えをカバンに詰め込んで、昂さんの車に乗り込んだ。
「ムリを言って申し訳ないな....俺がやればいいんだけど....俺がやるとゲイバーのオカマになっちゃうから....」
そう言って笑った。
「眠たくなったら寝てもいいから....」
「ありがとうございます....あの....これ見れますか?」
さっき借りたDVDを取り出した。
「ああ..見れるよ....」
昂さんはカーナビにDVDをセットしてスイッチを入れた。俺は昂さんと雑談をしながらも、DVDから目を離せなかった。
明け方前に昂さんの家に着くと
「ここで少しでも休んでくれ....朝からバタバタするかもしれないけど....」
昂さんは布団を敷いてくれた。俺は着替えもしないで布団の上に横になるとそのまま眠ってしまった。
目が覚めると、8時前だった。廊下に出て話し声がする部屋の前で
「失礼します!」
そう声をかけて戸を開けた。
「おはようございます!」
「葛城君起きたのか....入ってくれ!」
昂さんの言葉通りに中に入ると、昂さんはご両親と奥さんの明美(あけみ)さんを紹介してくれた。
「もう少しゆっくりしてらしても良かったのに....」
明美さんがそう声をかけてくれたが、明日の神楽が不安で寝てられなかった。
「いえ....それより明日の稽古を....」
「そう慌てないで....まずは朝飯を食べてくれ!稽古はそれからだ!」
昂さんがそう言ってくれたので朝食をいただく事にした。
朝食後、渡り廊下で結ばれた稽古場へと歩いて行く途中で
「俺なんかよりも神楽に詳しいじい様達に声をかけてあるから、じい様達に教えてもらってくれ!多分もうすぐ来てくれると思うけど....」
俺のような余所者が神楽を舞う事を快く思われないんじゃないかと不安になったが、じい様達は快く俺を受け入れてくれた。それどころか引き受けてくれてありがとうと何度も感謝された。午後からは噂を聞いたじい様やばあ様達が稽古場に次々とやって来ては嬉しそうに見ていた。