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その後は昼時まで平久保岬の景色を楽しみ、街に戻った後簡単な昼食を済ませてサザンゲートなる石垣の有名な橋の下で釣りをした。
色とりどりの魚を釣り上げ、ほとんどは海へ返した。
夕方になる頃には遊び疲れてホテルへ戻った。
シャワーを浴びてからベッドに寝そべる。
「湊ー」
「んー?」
スミノフを片手にテレビを見ていた時、ギュッと陽向がしがみついてきた。
いつもと変わらぬその光景。
せっかく旅行に来たのだから毎日遊び倒したい、そう思うのが普通なんだろうけど、こうして毎日家でじゃれているように旅行先でも同じ事をしているのは自分ららしいとも思う。
スミノフをサイドテーブルに置き、甘えん坊の陽向を身体の上に引き寄せほっぺたを包む。
日焼けしたのか、ほっぺたがものすごく熱い。
「ひな坊、日焼け止め塗った?」
「塗った」
「ほっぺ真っ赤」
「さっきシャワー浴びた時痛かった」
「沖縄の日差しには勝てなかったんかね」
「そーかもしれんな」
イヒヒと笑った陽向の唇に、ちゅっとキスをする。
「なーにー?」
「したかっただけ」
陽向は照れ笑いすると、真似して湊の唇に短いキスをした。
「なんだよ」
「したかっただけ」
「俺とのキスはお高いぞ」
「うそー。いくら?」
「1000万」
「んー……しちゃえっ!」
そう言うと、陽向は湊にまたキスをしてエヘヘと笑った。
「ホント…可愛いなお前は…」
よしよしと頭を撫でると、陽向は湊に抱きついて「湊…」と何度も呟いた。
今日の陽向はなんだか甘えん坊だ。
だけど、それがすごく嬉しい。
子供をあやすようにゆっくり、トントンと背中を叩いていると、気付いたら陽向は眠っていた。
その顔を見て、自然と笑みが零れる。
そして、尊敬の眼差しを向ける。
俺はお前みたいに辛いことなんてなかったし、いつも周りからちやほやされて生きてきた。
女にも金にも地位にも苦労したことはなかった。
いつも、いいな湊は、って言われ続けてきたんだ。
でもそんな自分が大嫌いだった。
偉そうな態度をとる自分も、カッコつけで吸ってたタバコも、どんな女だって手に入れられると思っていた感情も、全て大嫌いだった。
楽しかったけど、気付かされたんだ。
周りからちやほやされる自分に自惚れていたんだと。
本当の自分が分からなくなっていた。
お前に出逢うまでは。
素直さなんて、努力なんて、辛さなんて、そんな言葉知らなかった。
素直に言葉を伝えて、感情むき出して泣きわめいて、辛いことがあっても他人の幸せのために笑顔を向け、夢に向かって頑張っているお前を見ていたら、自分はなんてちっぽけな人間なんだろうって思ってしまうんだ。
そんなこと言ったら、お前はきっと「そんなことないよ」って笑顔で言うんだろうな。
いつも素直に生きていて、どんな困難にも必ず打ち勝って、陰ながら努力していて、それが少なからず報われているお前が羨ましいと思っているんだよ。
努力の先に何があるのか、俺は経験したことがないから。
お前と一緒にいて、俺は変われたんだ。
俺に無いものをお前はたくさん持ってる。
嫉妬してしまうほど、羨ましく思ってしまう。
だから、お前と出逢ってよかった、そして、この先もずっと一緒にいたいと思ったんだ。
幸せにしてやる、なんて偉そうに言ってしまったけど、本当はお前が俺のこと幸せにしてくれているんだと思う。
大切な事をたくさん教えてくれてありがとう、陽向。
誰よりも尊敬できる君に、いつか、一生に一度の誓いを捧げます。
なんだか女々しいけど、これが本当の自分なんだと思う。
愛してる…陽向。
腕の中でスヤスヤ眠る陽向の髪を撫でる。
「陽向…」
そう呟いた時、陽向の目がうっすらと開いた。
届いていないだろうと思っていた声が届いていたようだ。
「ん…なに…」
「…わり。起こした?」
「ぅん…」
「ごめん。寝てな」
「…いい。起きる」
陽向はあくびをし、ベッドにアヒル座りになって湊の腕を引っ張った。
起き上がり、陽向の身体を前から包む。
ギュッと抱き締められる。
「湊…」
「ん?」
「すき…」
「ははっ。なんだよ」
「大好き…」
「俺も」
小さな身体に腕をまわしてきつく抱き締める。
「大好きだよ、陽向…」
「ほんと?」
「ホント」
イヒヒヒと陽向の可愛らしい声が耳元で聞こえる。
このまま一緒に心も身体も一つになってしまえばいいのに。
そしたらいつまでも2人でいられるのに。
「どした。今日は甘えん坊さんだね」
「いーの。たまには」
「あそ」
静かに時が進んでいく。
今日はこうして抱き合って眠ろう。