第10話-1
イギリスにいるマリーさんに会いに行きます。
マリーさんは逮捕されましたが、刑務所にいるわけではありません。
自宅にも会社にも行けるそうです。在宅起訴とか言うそうです。
今回の渡英の目的は、ナオさんとマリーさんの仲直りと、
今後について話し合うことです。
私も当事者としてついていきます。
美さきちゃんは、おうちでお留守番のはずなのですが、思うところがあるらしく、
連れて行ってほしいと言い出しました。
なにかあるのでしょう。
今回は、観光旅行ではないので、ちゃんとした服装をします。
ナオさんのお母さんとは言え、
世界的な製薬会社のえらい人に会いに行くのですから、当然です。
ナオさんはスーツで、私たちにもフォーマルな服を用意してくれました。
スーツにパンプスのナオさんはとても格好良くて、ホレ直します。
表情も少し硬いです。
空港からは、迎えのリムジンに乗せてもらいます。
「もっと街中の、オフィスビルを想像してたんですけど、
けっこうイナカの雰囲気ですねぇ」
「マリーの趣味でしょ。でも、オフィスビルなんかよりずっと広いよ」
広い敷地に、研究施設のような建物が、間隔をとって建っています。
芝生がきれいに刈ってあります。
リムジンは、そんなに背の高くないビルの前に止まります。
駐車場には高そうな車が並んでいます。
エレベータで上がって、しっかりとした木の扉の部屋に通されます。
マリーさんがいます。
「よく来てくれたわ。二人とも元気そうね」
「マリーさん、こんにちは」
「うん、マリーも元気そうだね。痩せてもいないし」
「制限はあるけど、やりたいことはできるからね。行きたいところにもいけるし。
セキュリティー付きだけどね」
ナオさんには紅茶とショートブレッド。
私と美さきちゃんには、クリームとジャムがたっぷりのスコーンが出ます。
「今日は時間を取ってあるから大丈夫よ」
「まずは仲直りだね。
あの時、私はカッとなって、マリーに刃向かってしまった。謝るよ」
「ナオがそうなるように、私が話を向けたんだもの。
結果、私は逮捕、起訴されて、考えていた通りに物事は進んでいった。
私は引退しようと考えていたから、こうして仕事を続けて、
ナオと仲直りできたのは、ゆえちゃんのおかげね。
お礼を言うわ。ありがとう」
「いえ、私は身体が自然に動いただけですから…」
仲直りしたナオさんとマリーさんは、英語で話をします。
これからのことについて、専門的な話をしているのでしょう。
私にはチンプンカンプンです。
私と美さきちゃんは、オヤツを美味しくいただきます。
ひと通り、話が済んだようです。
「そうそう、美さきを紹介するよ。私のところにいて、家族よ」
「おやまあ、家族が増えて、ナオは幸せね。
初めまして、美さきちゃん」
「ほら、美さき。マリーと話がしたいんでしょ?日本語はできるから」
「うん…マリーさん、美さきの目を見て…」
「ちょっと!美さきちゃん、ダメだよ!」
「大丈夫…」
「なぁに?美さきちゃんはキレイな子ね」
マリーさんは、美さきちゃんの眸を覗き込みます。
私は、また、美さきちゃんが催眠術を使わないかと、ハラハラします。
「…えっ!?…美さきちゃん…あなた…」
マリーさんは固まってしまいます。私はドキドキです。
不意に、マリーさんは涙を流します。私とナオさんは慌てます。
「ごめんなさいね。あの人のことを、辛かった頃を思い出してしまったの。
美さきちゃんは、あの人の…仲間なのね?」
「はい…」
「なに?なになに?マリー、いったい何のこと?」
「ナオ、美さきちゃんは、ちょーにょー…supernatural powerを使えるわね?」
「えーっ!?なんでぇー!?どうしてマリーがそのことを知ってるの!?」
私もビックリです。