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『女神様伝説』
【SM 官能小説】

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第4章-1

      第4章

 12月24日がやって来た。この日は午後7時からクリスマス・イヴのキャンドル・サービス、そして午後11時45分から深夜ミサがある。終わるのは午前1時頃で、もう終電には間に合いそうにない。私は教会の信徒館に泊めてもらって、翌朝その足でリサたちと合流することにした。
 クリスマス・イヴのキャンドル・サービスは、礼拝堂のすべての電灯が消され、祭壇に灯る大きな蝋燭と、各々の信徒が手にしている小さな蝋燭の灯りのみで行われる。一年間で最も美しい礼拝と言われている。
 この蝋燭の灯りの中を、まず聖歌隊が入場して来て礼拝が始まった。『諸人こぞりて』『きよしこの夜』『荒野の果てに』『ダビデの村』などの聖歌が歌われ、入江司祭の説教へと続き、約一時間ほどで礼拝は終わった。
 礼拝の途中、私は何度、この蝋燭を自分の体に垂らしたい衝動に駆られたことだろう。もう蝋燭の匂いを嗅いだだけで興奮して疼いてくる体になってしまっていた。
そして礼拝の後は、礼拝堂に隣接する部屋でケーキを切ってクリスマスのパーティー。盛大に始まったこのパーティーも、やがて一人欠け、二人欠け、9時を過ぎる頃には四五人になった。
「吉田さんはこれからどうするの?」
 横浜市立大学の森山が訊いてきた。
「私はこの後、深夜ミサに出て、それからここの信徒館に泊めてもらう予定です」
「それじゃ、ぼくらも深夜ミサに出るから、それまでの間、どこかへ飲みにでも行かない?」
「いえ、私はお酒はちょっと。まだ未成年ですし、それに明日は大事な予定がありますので」
「わかってるよ。女子高生に無理に酒を飲ませたりなんかしないよ。料理を食べるだけでいいから、いっしょに来ないか」
「それなら」
 というわけで、森山、松岡、そして私の三人で、教会から森山の車で出かけた。
車は外国人墓地の坂を下って、元町から中華街の方へと走っているようだった。
「このあたりだったと思うんだけどなあ、あの店」
「いや、もうちょっと先だよ」
 森山と松岡には馴染みの店があるらしく、二人でそんな話をしていた。やがて店に着き、料理をつつきながら何やかやと雑談を始めた。いつしか話は進学や進路に関する話題になっていた。
「吉田さん、よかったら横浜市大へおいでよ」
 森山が言う。
「無理です、無理です。そんな、国公立なんて私には到底無理ですよ」
「もうどこか志望校とか決めてるの?」
「ええ、昭和女子大へ行きたいと思ってます」
「えらく具体的だなあ」
「どうして昭和女子大なの?」
「いえ、なんとなく憧れがありまして」
「でも、吉田さん、中学と高校も女子校だったんだろ」
「はい」
 私は中学から横浜女学院に通っていた。
「それで大学も女子大なんて、ちょっとつまらなくないの。男の子と遊びたいとか思わないの?」
 私、レズビアンなもので、と言いそうになって私はぐっと飲み込んだ。当時はまだ同性愛に対する偏見が相当に強かったのである。
 それから私たちは教会に帰った。深夜ミサには私たち三人の他に、入江司祭の家族を含めごくわずかの信徒が出ているだけだった。
 オルガニストもおらず、聖歌もアカペラで歌う。深夜という時間帯に、少人数でひっそりと行われる神秘的な礼拝。ぱちぱちと燃える暖炉の火。それはキャンドル・サービスに続いて、私のキリスト教ロマンをいやがうえにも高めるものだった。
 午前1時頃に深夜ミサは終わった。そして2時前には私一人になった。私は信徒館に移り、横になったが、あまりよく眠れなかった。
 朝の7時過ぎには起きて、最寄りの石川町駅から根岸線で横浜駅へと向かった。途中で朝食を食べたりして、9時に東横線のホームで谷本やリサたちと落ち合った。当時、東急東横線は桜木町発で渋谷が終点だった。みなとみらい線も副都心線もまだなかったのである。


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