兎の決意-4
「はい、どうぞ。砂糖はいくつ入れる?」
「え、ああ。小さじ半分くらいで」
「小さじ半分? へぇ、あまり砂糖入れないのね」
「ああ、甘いコーヒーって何か違和感があって……いや、それより、風邪引いてるんだろう? 休んでなくていいのか?」
「風邪は、もう治ってるわ。ずっと寝ていたし、少し退屈していたくらい」
「へぇ。元気なら、いいんだ。三日も休んでるからさ、だいぶ調子悪いのかと思って」
「体の方は大丈夫、でも心の方が少しおかしい、かもしれない」
ツキコはそう言うと、意味深に俺の方を見つめる。
俺はその視線を避けるようにコーヒーを一口啜り、ケーキを頬張る。
生地の間に生クリームと何かの果物が含まれていて、程よい甘さと酸味が口に広がった。
「やぁ、このケーキ随分美味しいな。どこで買ってきたの?」
俺がそんな事を言って、話題を微妙に逸らした。
だが、ケーキが美味いのは事実で、そんな俺を見て少しツキコが微笑む。
「それはね、退屈だったからわたしが作ったの」
「本当に? ハヤカワさん、こういうの好きなんだ? ほとんど店で食べるのと変わらないよ」
「レシピを見てその通りに作っただけよ。気に入ったなら、また作ってあげるわ」
俺は一瞬、答えに窮した。
また作る、というのは俺がまたこの部屋に来るという前提の発言なのだろうか。
未だに俺は彼女の気持ちをどう受け止めればいいのか、分からずにいる。
「このケーキなら、会長も気に入ると思うな」
「――そうだといいんだけどね。サトウさん、手先が器用そうだから、きっとわたしより上手よ」
俺が会長の名を出して返すと、ツキコは一瞬間をおいて、表情は変えずに答えた。
ツキコはヨウコに対して、全般的にかなり高い評価をしているようだ。
俺からすると、二人とも魅力的な女性で、客観的には甲乙付け難いものがある。
ただ、俺はまず会長に惚れてしまって、それで生徒会などに入ってしまったのだ。