第二十一章 揺れる思い-1
第二十一章 揺れる思い
舞の乗った車がゆっくりと走り出す。隆造が黙って舞を見つめている。舞は思わず窓を開け隆一に手を振った。
隆造の姿が遠くに離れていく。舞の中に色んな思いが溢れ出す。どこまでも強く男らしい隆造に舞は魅せられた。そして、隆造の逞しい腕に抱かれ、その愛情に触れた時、舞は心を開いて隆造の精を受け止めた。
隆造は優しかった。強い愛情で舞を包み、導いてくれた。そして、最後には舞の父親として何時でも見守っている、何かあれば何時でも迎え入れてくれるとまで言ってくれたのだ。舞は自分の腹に手を当てた。子宮が熱い。隆造への思いが溢れてくる。その思いはあまりにも強く、隆造の子を生みたいとさえ思えた。
そして、そんな自分が嫌だった。賢治を愛していた。賢治が好きで好きでたまらないのに、賢治を繋ぎ留めるために隆造に抱かれたというのに・・・
涙が溢れて止まらない。どうして隆造を相手に選んだの?他の人なら気持ちが揺れることなどなかったのに・・・
これほどまでに酷い仕打ちをする賢治が憎かった。しかし、許せない思いよりも強く湧き上がるのは、そんな賢治に対する激しく狂おしい愛情だった。
賢治は試しているのだ。子供を身篭り産み落とすということは浮ついた気持ちでは行えない。男の精を受け、その後、何ヶ月もの間、体の中で愛の結晶を育み続けなければならないのだ。賢治は、一流の相手を選んで行為に及ばせ、その代償を育む間も、舞が賢治を愛し続けることができるかを試している。そう考えると舞はたまらない気持ちになった。
賢治の危険な薫りに惹かれて好きになった。賢治に冷たく突き放されて体を熱くすることを覚えた。そして、今、賢治の焼き尽くすような激しい愛情に身を捧げ、身を焦がすことに快感を覚えていた。
賢治の思いを考えてみる。賢治はテレビカメラを通して行為の全てを見つめていたはずだった。舞と隆造が愛し合う姿を、賢治はどんな思いで見つめていたのだろう? 不安な気持ちに包まれた。
舞が裏切ったと思わなかったのか? 隆造に抱かれている間、舞は確かに隆造を愛していた。 賢治がそれを裏切りと感じたとしても言い訳などできるはずもなかった。 もし、賢治の愛を失えば・・・
そして賢治は・・・
一人でいたの?
私だけを見ていたの?
部屋には、もう一人の女がいる・・・
それも、賢治が興味を抱いた女が・・・
もし、賢治の気持ちが舞から離れ、その女に移っていたとしたら・・・
その女は・・・
舞の体が震え出す。その事を思うだけで、気が狂いそうだった。
続く