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勇気をもって!
【学園物 官能小説】

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勇気をもって!-3

 五月の末、何となく塾へ行く気がしなくて目的もなくぶらぶら歩いていた。
「ナンパされたの」
里香が目を輝かせて言った。
 ナンパ……。優希も街で声をかけられたことはある。でも、ろくに相手の顔も見ないで逃げ出してしまう。制服を着ていて高校生だとわかるのに誘うなんておかしいと思う。きっといやらしい考えなのだ。

 向こうも二人でスーツ姿のサラリーマンだという。
「カラオケ行って盛り上がっちゃった」
その時ケータイのアドレスを教えてまた会う約束をした。
「二回目に会って、自然とカップルになっちゃったの」
「自然にね」
「カップルって?……」
高校生である自分たちとサラリーマン。優希にはその結びつきがぴんとこない。

「愛し合ってるの。あたしも真美も」
里香はやや俯いてためらいがちに言い、しかしすぐに毅然と顔を上げた。
「本気なのよ。優希にだけ言うわ」
「愛し合ってるって、どういうこと?」
「だからーー」
セックスをしているのだと、里香ははっきりと言った。真美も続いて、
「素敵な人よ。優しいし……」
優希は頬が熱くなって口ごもってしまった。

 デュエットをして体を触れ合っているうちに気分がよくなってきて、相手に好きだと言われて体がふわふわになったという。
 抱き合ってキスして、胸を触られたりして、
「経験しちゃった」
「しちゃった」
「え……二人とも?」
「うん……」
優希は聞いているだけで動悸が高鳴ってきた。
「ホテル行ったんだ……」
「行かない……そこで……」
「カラオケで?まさか」
「だってそうなんだもん。ね」
二人は他人事みたいに言って首を傾げ合った。
「そんな……」
「そういう雰囲気になっちゃったのよ。ちゃんとソファあるし」
そういう問題じゃない。

 二人と話をしながら優希は頭が混乱してきた。目の前にいる親友の里香と真美が別人のように思えてきて、声まで違って聞こえる。
「そんなこと、考えられない……」
二人に、というより自分自身に向けた言葉であった。
「そう思うでしょう?それが不思議なのよ、セックスって」
ためらいもなく言うので優希は口を噤んだまま二人を見つめるしか出来なかった。

 里香と真美は途中から説得するような話し方になった。
「先入観は捨てて聞いて」
「プラスになることなんだから」
経験してしまうと世界が変わるという。気持ちが楽になり、それまで無駄な重荷を背負っていたことに気がつくのだと真剣に話す。
 重荷、とは、バージンであることによる観念であり、そして結論の出ない未知の世界への想像。その精神的な気持ちが解放されると言いたいらしい。あれこれ考えめぐっていたことが全部解決する。
 たしかにセックスのことは妄想したり夢をみたりすることはある。だからさっさと経験してしまう。そんなわけにはいかない。しかも行きずりの男と。……

「その人たち変よ。里香も真美も遊ばれてるのよ」
「佐々木さんも鵜飼さんも真面目ないい人よ」
「真面目な人が女子高生にそんなことするかしら」
「バージンにはわからないのよ」
二人が気色ばんだ表情になったので、優希はそれ以上言っても無駄だと思った。

 沈黙のあと、里香は言い淀んでから、気を取りなすように易しい口調になった。
「悪いけど、経験しないとわからないのよ。だから……」
続いた言葉に耳を疑った。あろうことか、優希も一緒にどうかと言うのである。優希は絶句した。
「鵜飼さんの友達でいい人がいるから今度六人で会わないかって」
「鵜飼さんて、里香の彼」
真美が嬉しそうに言う。ということは佐々木という男が真美の相手なのだ。
「会うって?」
「とりあえず会うだけよ。カラオケで。好みだったら付き合えばいいし、いやだったら断ればいいのよ」
優希は返事をしなかった。出来なかったのだ。反論するにしても怒るにしても考えがまとまらない。
(今どんな時期かわかってるの?)
そんなことを言ってもまったく別次元の話になってしまう。
 授業開始の予鈴が鳴った。
「明日なの。来ればきっと考えが変わるわよ」
「優希、来てね」
二人はスカートを翻して走り出した。


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